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【東京電力ベンチャーズ】投資×事業開発の両輪で挑むエネルギー新時代への挑戦
人々の生活に欠かせないエネルギー分野。規制緩和や再生可能エネルギーの台頭など、エネルギー業界はグローバル規模での目まぐるしい変化の真っ只中であると言える。日本国内でエネルギー業界を牽引してきた東京電力グループも新規事業創出への危機感と意欲は高い。2018年に発足した東京電力ベンチャーズは、エネルギー新時代を見据えた新規事業へのチャレンジを繰り返している。自身も当事者として新規事業へ挑んだ経験を持ちながら同社の代表取締役社長を務める赤塚氏に、会社設立までの歴史と今後の展望を伺った。
▼目次
ダム建設エンジニアから新規事業キャリアへ
―まずは赤塚さんのこれまでのキャリアについて教えていただけますでしょうか?
1995年に東京電力に入社後、ダム建設の土木エンジニアとして地質調査や設計、施工管理に携わっていました。そして、電力の規制緩和に伴って1999年に新規事業部署が新設されて異動しました。抜擢されたわけでも、希望したわけでもない。本当にご縁で、異動が決まった形でした。
新規事業部署では、ソフトバンク・マイクロソフトと協業したインターネット接続サービス・スピードネットや、省エネルギーサービスなどを開発。当時は複数のプロジェクトが同時並行で立ち上がり、3〜4人で事業を動かすような結構カオスな状態でした。
私は「定年退職する人材の第二キャリアをどうするか」という組織課題を解決するための人材系のプロジェクトに関わり、子会社を設立しました。当時は、リストラが進んでいた化学や鉄鋼業界の課題をヒアリングしながら、電力業界にアレンジして事業を作っていきました。
―20代で新規事業開発、子会社設立という非常に濃いご経験ですね。その後に関わった仕事についても教えてください。
その後、エネルギー環境分野の新規事業開発へ。太陽光や蓄電池、EVなど、当時注力し始めていた新しい事業開発に携わっていました。しかし2011年、東日本大震災を機に東京電力の事業開発は全てストップ。ちょうどスマートシティ構想が話題となり始めた時期でした。
新規事業への投資はなくなり、会社の一丁目一番地の話題としては「復興にどう貢献できるか」。私も会社の再編のミッションを背負うことになりました。事業開発をやりたい人材は辞めていくことも多かった。しかし、私はインフラ会社を選んでいる時点で、「社会や人の役に立ちたい」という意欲が強かったんです。だから、新規事業とは真逆のような仕事でも、特に葛藤はありませんでした。
その後は2014年に、東京電力の設計技術を他社に外販する設計会社に出向しました。エネルギー自由化に伴って自社で発電所を持ちたい顧客企業に対して、設計ソリューションを提供する仕事をしていました。そこで他社と事業開発を共に推進する経験を積み、2018年に新規事業検討のためのタスクフォースにジョインしました。
Utility 3.0時代を見据えて子会社として独立
※Utility(ユーティリティと読む)とは、電気・ガス・水道などの公益事業のこと。Utility3.0は、急速に進展する分散型電源や蓄電池、デジタル技術などのテクノロジーを活用し、他業種プラットフォームと融合するエネルギー事業の新たな形態を示す。
―新規事業のタスクフォースはどのような背景で立ち上がったのでしょうか?
タスクフォースのスタートは2013年です。東日本大震災後での福島第一原子力事故よる福島復興が第一命題である一方で、社会に対しても、徹底的なお客さま目線で新しいサービスを創っていく必要がある。さらには社内人材の流出抑止の観点もあり、そういった背景で出来た組織です。
そこで様々な新規事業を試みた後、2016年頃にCVCとしての出資機能を追加。海外投資家とのコネクション作りやスタートアップ企業への出資などの活動を行なっていました。
私がジョインした2018年当時は、ちょうどCVC機能からさらにステージを上げようとしていた時期。子会社として独立して「自らもPLを背負いながら事業開発をすべき」という議論が挙がっていました。
―スピンアウトしようという議論に至ったのは、どのような課題意識からでしょうか?
CVCとしての出資で将来性ある事業とのネットワークを作ることが出来ても、それを事業化していくためには、本体の基幹事業との連携が欠かせません。しかし、それを社内の新規事業部門で進めようとすると、どうしてもスピード感が足りなかった。既存事業側の視点では、技術実証などリスク面を重視せざるを得ません。双方の時間軸が上手くハマらなかったんです。
しかし、エネルギー事業は「Utility 3.0」と言われる新しい時代が来ていました。自由化はもちろん、分散化やデジタル化、人口減少などの影響で、世界的にも事業は刻々と状況が変化しています。いわゆる大規模な発電所が電力を供給するだけの時代ではなくなって、家庭で自家発電を行うことも可能になり、電気自動車など自動車産業との連携もあります。そんな時代の変化に対して、指をくわえて見ている場合ではない、という危機感は経営陣にもありました。
そこで、新規事業をもっとスケール化して価値創出する場を作るべきだという意思から、東京電力ベンチャーズ株式会社として独立に至りました。
―経営層としても新規事業に対する意識は強く持っておられるのですね。
新しい事業を創っていくことは、グループ全体において重要な位置づけとなっています。
東京電力には発電・送配電・小売および再エネという4つの基幹事業会社がありますが、現在はその事業会社それぞれの中に新規事業部署があり、各社のアセット・技術・人材を活用しながら新規事業を創出しています。
出資機能と事業開発機能のハイブリッドモデル
―東京電力ベンチャーズの主な事業領域を教えてください。
現在は、主に5つの事業展開を実施しています。まずは、エネルギーの需給調整を担うDR(デマンドレスポンス)事業。電力は同時同量で、溜めておくことが出来ないため、都度発電したものを使用するという考え方です。しかし、例えば太陽光発電で、晴れている時しか電力を使えない、といったことでは困りますよね。常に安定して電力を使うためには、需要と供給を調整する必要があるんです。再生エネルギーの注目度が上がっている中で、この調整力はニーズが高まっています。
次に、一般家庭で太陽光発電などを使用出来るようにする小売事業。こちらは傘下のTRENDE株式会社に出資し、共に事業作りを行っています。
その他にも、ハワイでマイクログリッド事業を展開するAdon(エイドン)、アメリカでEV充電器を開発するスタートアップ企業Fermata Energyへの出資などを実施しています。Fermataは規制緩和が進むアメリカで新ビジネスを創りやすい土壌にあり、一緒に事業を創ることで、ゆくゆくは日本国内でも技術やナレッジを活かせればと構想しています。
―CVCによる投資と、自社での事業開発の両輪を回している理由はどのように考えていますか?
スピード感と成功確率のバランスを考えて、外部パートナーと協力しながらも、自社としても事業のオーナーシップを持ちながら事業展開していくのが良いと考えているためです。
他社と共同出資する場合は、どの事業に出資しているか明確にするために子会社を別で立ち上げることも。TRENDE株式会社を別法人にしているのもその一例です。TRENDEは元々タスクフォースの中から先立って法人化していた事業だったので、東京電力ベンチャーズが法人化した際に共に事業を推進していくため傘下に入れることになりました。
―外部パートナーからは、東京電力ベンチャーズにどのような期待を寄せられることが多いですか?
東京電力ホールディングスの100%子会社として、首都圏に膨大なアカウントを持っていることを魅力に感じて頂くことが多いですね。また、数十年の電力事業の経験で培った技術力も評価されています。その本体事業とシームレスに接続するためには、我々がビジネスとして価値を創出して、お客様に受け入れられていることを基幹事業本体にもしっかり見せる必要がある。ビジネスとしての面白さを見せ、一緒にやりたいと思ってもらう。ちょうど今芽が出始めている段階なので、まだまだこれからですね。
―インフラ事業なのでスモールな実証実験などが難しいケースもあると思いますが、そこでの工夫を教えてください。
試行錯誤しながら取り組んでいますが、エリアや期間、提供数量を限定するやり方でしょうか。実証実験といえども惰性で進めてはいけないので、明確にKPIを定めて仮説検証をしっかり行いながら、小さくチャレンジを繰り返す他ないと思います。東京電力本体では出来にくいことも自己責任でチャレンジ出来る環境にはあると思っているので、スピード感を持って検証を進める方法を模索しながら日々挑戦しています。
―東京電力ベンチャーズとしての今後の展望を教えてください。
エネルギーは生活に欠かせないもの。例えばスマホの電池切れであったり、シェアバイクの活用方法だったり、太陽光を蓄電していたら災害時にも家電を使えるな、とか。「もっとこうしたら便利なのに」と生活の中で思うことはたくさんあると思います。
平時・有事問わず、エネルギーの活用方法はもっともっと拡げていけると思っています。それをパートナーと協業しながら、世の中により広く提供していく役割を担っていきたいですね。
「なぜ?」の繰り返しで目線を合わせる重要性
―ハードな社内調整が必要になるシーンも多いかと思いますが、基幹事業などの本体のアセットを上手く動かすコツはありますか?
「目線を合わせる」ということは常に意識しています。過去に出向先企業でソリューション営業を担当していた時、お客さまの言う通りに商品を提供するのではなく、依頼の裏側の思いまで探るようにしていました。「なぜ(自社設備として)発電所を作りたいのか?」を掘り下げていくと、そこには、“生産設備を止めたくない”とか“何かあった時に供給を止めないバックアップをしておきたい”とか根っこの想いが見えてくる。そこが見えると、提供出来る価値も拡がり、結果として信頼関係を築けました。
社内調整もそれと同じ。よく新規事業は「危ない」と言われがちですが、「なぜ危ないと思うのか?」を深掘りすれば細かい懸念点が炙り出せる。そうすると、その懸念点を解消する策を提案できますよね。逆に目線が合わないまま進めると、急に議論が先祖返りして立ち行かなくなる、という経験もありました。手間のかかる作業ではありますが、一緒に目指す先が見えてくると共感してもらえるし、一気に物事が進みやすくなると思います。
―これまで様々な新規事業を経験し、多様な人材を見てきたかと思います。新規事業に向いている人材の特徴やスタンスはどう考えていますか?
好奇心やしつこさ、諦めないスタンスは重要だと思います。良い意味で「鈍感力」が高い人も向いているのでは。新規事業には失敗がつきものです。反省も必要ですが、すぐに立ち上がって何度もチャレンジしなければ成功しない。そう言った意味では、鈍感さは重要な要素だと思います。
また、性格的に細かい人も意外に良いんです。大きなビジョンを描いた後には、細部にこだわることが重要。いかにディティールにこだわれるか、でサービスの質は変わります。
ただ、完璧な人間はいないので、こういった要素を持った多様な人材が集まって、チームワークで新規事業を創っていくのが理想ではないでしょうか。
社内起業家へのメッセージ
―最後に、企業内新規事業の推進に取り組む皆さまへのメッセージをお願いします。
いつも心に留めているのは、「今を生きる」ということ。目の前にあることを真摯に取り組むことが重要です。
私は、たまたまの異動から新規事業へのチャレンジが始まりましたが、その機会を大切にすることで様々なチャレンジの広がりが生まれ、様々な人と出会うことが出来ました。
小さなことでも良いので、日々の改善や工夫が、必ず次に繋がります。今、目の前にある機会や、人との縁を大事にしながら、前向きなチャレンジを進めていって欲しいです。
取材・執筆・編集:加藤 隼 撮影:永山 理子
東京電力ベンチャーズ株式会社
赤塚 新司
1995年、東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)入社。2018年から、新規事業の創出や国内外のベンチャー投資などを行う社内組織「新成長タスクフォース」事務局長を務めたのち、同年7月より現職。 20代から子会社立ち上げや出向先での新規事業創出など、起業の第一線で活躍した経験を活かし、グループ企業内の起業コンテスト等では数々の審査委員をつとめる。東京電力グループ内におけるイントラプレナーのリーダーであり、指導者的役割も担う。 「今を生きる」がモットー。