Interview

【オプテージ】新規事業に初挑戦した営業リーダー、プレ事業化までの道を振り返る

【オプテージ】新規事業に初挑戦した営業リーダー、プレ事業化までの道を振り返る

関西圏で光インターネットを提供する「eo(イオ)光」やMVNOサービスの「mineo(マイネオ)」など、通信サービス業界で存在感を示す株式会社オプテージ(関西電力100%出資子会社)。

同社が2020年にスタートしたのが、新規事業創出プログラム「ビジチャレ」だ。部署部門に関係なく、すべての従業員から事業アイデアを公募。新規事業創出に加えて、イノベーション人材を育成することを目的としており、2022年にはここから生まれたアイデア「マンション修繕なび」がプレ事業化に至るなど、着実に成果も生まれつつある。

安定した事業を展開する同社が、全社をあげて初めて新規事業創出に取り組むことになった課題意識とは何だったのか。そこから得た学びは何だったのか。「マンション修繕なび」の起案者である廣田安將氏、ビジチャレ事務局の責任者である竹本道郎氏にそれぞれの道のりを振り返っていただいた。

「新規事業」でキャリアの迷いを打開したかった

「マンション修繕なび」は、分譲マンションの重要な行事である大規模修繕をサポートするサービス。

マンション管理組合とマンション管理士、施工会社、コンサルタントなどの専門家をマッチングするだけでなく、書類の作成や各種調整など、検討開始から着工までの面倒なプロセスも代行し、満足度の高い大規模修繕を実現するというものだ。

廣田:マンションの管理組合や理事会は、区分所有者により組織されます。そのため、施工業者やマンションの修繕に関する専門的な知識を持っているとは限りません。

マンションの大規模修繕は、区分所有者が長期に渡って積み立てたお金を使って大事な建物を維持するために行う大事な仕事。にもかかわらず、長期修繕計画や工事の進め方の相談先がわからないという悩みをお持ちの方は数多くいらっしゃいます。

そこで、私たちオプテージが間に入ってサポートを行い、信頼できる専門家を比較しながら選べるサービスとして「マンション修繕なび」を立ち上げました。

廣田安將氏

そう語るのは、当事業の起案者である廣田氏。前職を含め20年にわたり営業畑を歩んできた廣田氏が、まったく未経験だった新規事業を立ち上げることになったきっかけは何だったのだろうか?

廣田:まず、自分自身がキャリアチェンジしたかったというのが一点。前職からずっと営業一筋でやってきて、それ以外の職種を知らなくてもいいのかという焦りのようなものがありました。

そんな時に、オプテージで「ビジチャレ」という新規事業創出プログラムがスタートすると聞き、これは現状を打開するチャンスかもしれないと。

しかも、ビジチャレの事務局のトップには、以前に同じチームで仕事をしていた竹本さんが就任されていました。信頼できる竹本さんがいるなら、トライしない手はないなと思ったんです。

ビジチャレは2020年3月に始動。すでに4回実施されている。現時点で事業化にまで至ったのは「マンション修繕なび」のみだが、これまでに数多くの事業アイデアが集まり、イノベーション人材の育成という点でも意義のあるものとなっている。

既存事業が堅調ななか、あえてこうしたプログラムを立ち上げた背景について、竹本氏は次のように語る。

竹本:オプテージは2019年に関西電力グループの情報系会社と合併し、従業員数が大幅に増えました。このタイミングで、イノベーション人材の発掘・育成活動を通して社内を活性化させたかったというのが理由の一つです。

また、足元の業績は好調だったものの、光インターネットの「eo(イオ)光」やMVNOサービスの「mineo(マイネオ)」といった注力サービスの普及はひと段落していましたし、新たな事業開発が求められる時期でもありました。そこで、熱い思いや優れたアイデアを持つ社員が、新規事業開発にチャレンジできる場を設けることになったんです。

竹本道郎氏

顧客に向き合うなかで、事業への思いが強くなった

ビジチャレは最長1年以上にわたるプログラム。書類審査を通過すると「エントリー期」に入り、各自のビジネスアイデアで想定される顧客の課題について、「本当に合っているのか?」「違っているなら本当は何が課題なのか?」などをおよそ3か月をかけて深掘りし、精緻化していく。

その後、プレゼン審査を通過するとサービスのプロタイプ制作と顧客ヒアリングを何度も繰り返す「MVP期」へ。半年を費やして、試作品を作って顧客に試してもらうことを何度も繰り返すことで、事業アイデアを具現化していく。

そして、プレ事業化審査を通過すると「シード期」に入り、事業化に進めるという流れだ。

なお、エントリー期には10万円、MVP期には100万円の事業検証予算がつき、社外パートナーによるメンタリングや研修なども含めた手厚いサポートを受けることができる。

竹本:事業アイデアの募集期間中にも、10日に1度くらいのペースでイベントを行ったり、社外メンターとの壁打ちの機会を設けるなどして、まずはビジチャレに関心を持ってくれる人を増やすことに力を入れています。

事業アイデアを考えて応募するまでは業務時間外の扱いになりますが、書類審査通過後のエントリー期は、現在の所属部署で働きながら起案した事業に総業務時間の約20%を割くことが認められるんです。

また、プレゼン審査からプレ事業化審査までのMVP期は総業務時間の約30~50%の時間を起案した事業に割くことができます。

このあたりは事務局が各部門の上長に直接お願いをして、評価や業務量の調整をしていただくようにしていますね。なお、プレ事業化審査を通過すると、初めて100%専任というかたちになります。

プレ事業化のフェーズに入ると使える予算も大きくなり、メンバーも増える。廣田氏の「マンション修繕なび」にも一定規模の予算がつき、2023年5月からは6名のチームで事業をスケールさせるべく奮闘しているという。

竹本:正直、起案からプレ事業化まで進めるのは100の事業アイデアのうち1つあるかどうかというところ。それを考えると、プログラムの始動から2年目で廣田くんがそこを突破したのは、快挙といっていいと思います。

こうして見事にチャンスを掴んだ廣田氏だが、じつはエントリーの段階では事業アイデアにいまひとつ自信が持てていなかったという。

廣田:応募段階では現在のようなマンションの管理組合と大規模修繕の専門家をマッチングする事業アイデアではなく、マンションの自治会が行う活動をDX化するというものでした。

自分では面白そうだと思っていたものの、本当にニーズがあるかどうか確信が持てていなかったんです。書類審査を通過してエントリー期に入り、顧客に課題を聞いていくなかで徐々に考え方が変わっていきましたね。

当時、メンターを務めてくださった方から言われたのは、「もっと色々な人に徹底的にヒアリングをして、顧客課題を探ってください」ということ。

そこで、分譲マンションにおける困りごとをひたすら聞き取っていくなかで、より大きな顧客課題が見えてきたんです。それが大規模修繕にまつわるお悩みでした。

より解決すべき顧客課題が見つかったことで、当初の事業アイデアからビボットし、MVP期を経て「マンション修繕なび」のビジネスモデルができあがった。

廣田:顧客に向き合ってヒアリングを重ねるにつれ、この課題を解決したいという思いがどんどん膨らんでいきました。また、当初よりも根が深く大きな顧客課題を掘り当てられたことで、事業アイデアへの手応えや意義みたいなものも、強く感じられるようになったと思います。

起案者の特性をふまえた、事務局の手厚いサポート

顧客課題の深化によって、事業化への自信とモチベーションはより一層高まった。とはいえ、廣田氏にとっては新規事業自体が未知の領域であり、やはり一筋縄でいかないことも多かった。特に悩まされたのは圧倒的なリソース不足だという。

廣田:会社としても新規事業創出プログラム自体が初の試みで、いわばぼくはファーストペンギン。社内からの認知や理解もそれほど浸透しているわけでもなかったので、公然と協力を仰げるような雰囲気でもなかった。基本的には一人ですべてやらなければならず、最初はかなり苦労しました。

ただ、事務局が用意してくれたビジチャレの社内ブログに事業への思いを綴ったところ、マンションの大規模修繕における課題感に共感してくれた人が非公式の部分で協力してくれるようになったんです。たとえば、マンションの理事会の方や管理会社の方などヒアリング先を紹介してくれたりして、とても助かりましたね。

もう一つ大きかったのが、竹本氏のサポートだ。事務局トップとしてはもちろん、かつて同じチームで働き、信頼関係もある二人。

竹本氏はヒアリングの際には必ず「メモ係」として同席し、終了後の振り返りで課題を整理したり、社外メンターには解決できない起案者の悩みや困りごとに対し、親身になって相談にのったりと、徹底的に寄り添っていたという。

竹本:ただし、私が相談に乗っているのはあくまで事業以外の部分です。事業の内容そのものについては、あえて何も口出ししないよう心がけていました。そこは社外のメンターと壁打ちをしながら、起案者自身が練り上げていくべきだと考えているからです。

事務局としてサポートしていたのは、廣田さんの事業の方向性と会社の経営戦略が大きくズレないよう、接点をいかにつくっていくかを考えたり、プレ事業化後に予算がしっかりとれるよう各部署へ働きかけたり。とにかく、起案者が自分の事業だけに集中できる環境を整えることを意識していましたね。

竹本氏の言葉からは起案者と同等か、それ以上の熱量で一つひとつの新規事業に向き合っていることが伝わってくる。画一的なサポートではなく、起案者一人ひとりの特徴に合わせてアプローチを変えているのも、せっかくのアイデアを何とかかたちにしてあげたいという思いからだ。

竹本:当然ながら、起案者により得意なこと、苦手なことは異なります。事務局がサポートするべきなのは苦手な部分。廣田くんの場合はずっと営業だったこともあり、ヒアリング自体は得意なんです。でも、ヒアリングした内容を整理することが、最初の頃はあまり得意ではなかったため、そこを重点的にサポートしました。

一方で別の起案者の場合、課題の整理には長けていても、ヒアリング先へのアポ入れなどのアクションを苦手としていました。そこでは、声かけの仕方をアドバイスしたりと、タイプによってサポート内容を変えています。起案者が増えていけば、サポートのパターンみたいなものはいくつかできてくると思いますが、基本的に決まったかたちはないのかなと。

新規事業のおかげで、キャリアへの迷いがなくなった

ビジチャレは現在4回目の募集が終了し、書類審査を通過した起案者はエントリー期に入っている。プレ事業化にまで至った廣田氏の事例もあり、回を重ねるごとに社内での関心も高まりつつあるという。

竹本:これまでに集まった事業アイデアは50以上になりますが、まだまだ足りない。まずはイベントに参加してもらうだけでもいいので、ビジチャレに興味を示してくれる人、関与してくれる人をさらに増やしていきたいです。

そして、この制度を多くの社員が当たり前のように活用するような状態になれば、オプテージにイノベーションの風土が醸成されたといっていいのかなと。

それまでは、地道に頑張っていくしかないですね。正直、事務局の仕事ってめちゃくちゃ地味なんですよ(笑)。でも、それをやり続けることに価値があると思っています。

今後の「ビジチャレ」を盛り上げるうえでも、トップランナーである廣田氏にかかる期待は大きい。「マンション修繕なび」の事業をスケールさせることはもちろん、ビジチャレの後輩たちにイノベーターとしての背中を見せていく。そんな思いも、廣田氏のなかで大きくなっているようだ。

廣田:私自身、この取り組みを通じて大きく成長できたという実感があります。またキャリアに対する不安や焦りもなくなりましたね。

冒頭でも少しお話ししましたが、私はずっと営業をやってきて、社内では評価されていても、社外で通用するのかという疑問を抱えていました。

でも、このプログラムのなかで多くの問題や課題を乗り越えてきたことで、多少のことには動じない胆力と自信が身についたと感じます。ですから、もし当時の私と同じようにモヤモヤを抱えている人がいるなら、ぜひ思い切ってチャレンジしてもらいたいです。

もちろん、現状の仕事も忙しいでしょうし、やらない理由はいくらでもあります。私自身も、ビジチャレの期間中に子どもが生まれ、子育てと既存の業務に追われながら新規事業のことを考えるのは、かなりハードでした。

それでも、多くのサポートを受けながらプレ事業化までたどりつけましたし、振り返ってみれば本当に楽しかった。トライしてよかったと心から思えますね。

取材・執筆:榎並紀行(やじろべえ株式会社) 編集:佐々木鋼平 撮影:福森公博

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株式会社オプテージ 

廣田 安將

2009年、株式会社ケイ・オプティコム(現・株式会社オプテージ)入社。家電量販店店頭スタッフ〜営業リーダーを経験。流通量販店でのイベント部隊立ち上げや、mineo(MVNO)の販路開拓など、10年以上営業の最前線で活動。2021年に社内の新規事業公募制度に挑戦し、自身の経験から生まれたビジネスアイデアを「マンション修-なび」として事業化、事業拡大を推進中。

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株式会社オプテージ

竹本 道郎

2003年、株式会社ケイ・オプティコム(現・株式会社オプテージ)入社。法人・コンシューマ向け広告宣伝・販売促進・店舗開発に長く携わったのち、2019年に新規事業開発部門で社内事業公募制度・ビジチャレを立上げ。新規ビジネス創出と社内イノベーション促進を目的として、現在4回目のビジチャレ運営を推進中。