Interview

【LIFULL_uniiリサーチ】「事業開発の不」を解決する新規事業への挑戦

【LIFULL_uniiリサーチ】「事業開発の不」を解決する新規事業への挑戦

新規事業開発プロセスにおいて欠かせないのが、顧客となるユーザーへのニーズ調査。「uniiリサーチ」はユーザーの声を基に新規事業開発を行いたい企業と事業開発に協力することで謝礼を受け取るユーザーを繋ぐサービスである。ユーザーは自宅で簡単にインタビューに参加でき、企業から謝礼を受けることが出来る。さらに、インタビュー実施1回ごとに、子ども向け支援を行うNPO団体に10円が寄付される仕組みで、協力することで社会課題の解決にも貢献出来るサービスとなっている。本事業を立ち上げた浜岡氏は、LIFULL井上社長の「カバン持ち」など、ユニークなキャリアを経て、新規事業開発に挑戦をした経験を持つ。自身も経験した「新規事業の不」を解決する事業を立ち上げるまでの軌跡について伺った。

営業で成績を残し、社長の「カバン持ち」を経験

―まずは「uniiリサーチ」事業の立ち上げに関わる前のキャリア/経歴を教えてください。

2014年4月に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)に入社。「LIFULL HOME’S」という不動産・住宅情報サイトの営業を4年間経験しました。主な業務内容は、ポータルサイトに出稿いただく不動産会社の集客支援のコンサルティングです。

1年目は東京で小規模な不動産会社の担当からスタートし、2-3年目は大阪配属でお客様に怒られながらも鍛えられる期間を過ごしました。マネジメント業務経験したのち4年目に東京本社に戻り、大手クライアントを担当させていただきました。

―営業時代に成績トップを取られた経験があると伺っています。

コンスタントに数字は積んでおり、営業売上目標自体はいつも達成していたのですが、突破力がなく、なかなかトップは取れていませんでした。4年目にやっと、半期と年間で2度トップセールスを達成しました。それをきっかけに海外研修にも行かせていただいたのが成功体験になりました。

―コンスタントに成果を残す上で大事にしていた仕事のスタンスはありますか?


「もっと価値提供出来ることはないか?」を全てのお客様について考えていました。私は感情よりもロジカルなタイプなので、「やらない理由はない」というところまで突き詰めてご提案するようにしていました。ご提案の仕方についても、誰よりもシミュレーションして望んでいたと思います。

―営業経験の後はどのような仕事を経験されたのですか?


5年目に社長室に異動し、社長の井上の補佐として、いわゆる「カバン持ち」のような仕事をすることになりました。今後のキャリアについて悩んでいたタイミングだったのですが、上長や役員がこのダイナミックなジョブチェンジを勧めてくれたのです。「社長のカバン持ち」という仕事は人生でもなかなか巡り会えません。社長である井上のことも尊敬していたので、思い切って挑戦することにしました。

―会社としての懐の深さも感じます。具体的にはどのような仕事が多かったですか?


当時の井上はLIFULLの経営だけでなく、財団を持っていたり、一般社団の理事をやっていたりと、多岐に渡って活動していたため、様々なプロジェクトマネジメントの仕事を2年間担当しました。営業職としてのスキルしかなかった中で、日々膨大な量のアウトプットを簡潔にまとめたり、財団の立ち上げ推進したりと、思考力が鍛えられる毎日でした。

また、自分の現場感を活かして、現場の声を吸い上げての提言も積極的に行っていました。井上のそばで働くことで自然と視座が引き上げられ、非常に濃い2年間を過ごしました。

度重なるチャレンジとピボットを経験

―その後、社内新規事業提案制度「SWITCH」に応募した経緯を教えてください。

私は2度「SWITCH」に挑戦しています。1度目は入社4年目の営業時代。教育系の分野に関心が高かったため「部活動での教師の負担軽減」に関する事業案を提出しました。しかし、これは残念ながら不採用という結果でした。当時は営業の仕事も充実していたので、「とりあえず挑戦してみるか」くらいの気持ちでの応募でした。

―2度目のチャレンジは、いつ、どのような心境で手を挙げたんですか?


社長室に配属されてから1年後、井上と新しいビジネスの探索をする機会も増えたことで、再び新規事業への関心が高まるようになりました。社長室には新規事業を推進している事業責任者が所属しており、彼らの仕事ぶりも近くに見れる恵まれた環境で、「自分もやらない理由がない」と再挑戦することに決めました。そこで「教育系のコンテンツ」をテーマとした応募で入賞することができ、事業検証ステージに進むことになりました。ただ、構想は評価されたものの、机上の空論ばかりで収益性の担保も出来ておらず、事業開発のスキルセットや知識も足りない状態でした。

―ピボットを決めた決定的な出来事はありましたか?


井上から「本当にこれがやりたいの?」と聞かれた時に、まっすぐ返せなかったんです。その後でチームメンバーとも話し合って「「人々がお金を払ってくれるほどの課題を解決するサービスではなかった」」という結論を出しました。この時の経験から、「興味を持ってもらえるものとお金が払ってもらえるものでは大きく異なる」ということを学びました。

その後に何度も仮説検証とピボットを繰り返して、最終的に顧客がついたのが「uniiリサーチ」事業に繋がる事業構想です。ここに至るまで約半年間、ずっと迷走していて、本当にしんどい時期でした。

―元々の構想からテーマ自体も変更していますが、根本からのピボットに関しても寛容だったのでしょうか?

通常はテーマが変わった場合は再チャレンジになるかと思います。ただ私は諦めが悪く、チームメンバーがせっかく集まったので「なんとか成し遂げたい」という思いが強くありました。検証自体も出来るだけ予算をかけずに、Facebookを使ったり、LPのみで反応を見たりなど、ミニマムな設計を組んでいたので、イレギュラーでありながら押し通せたのだと思います。

「顧客目線」が新規事業の勝敗を決める

―「uniiリサーチ」事業の着想に至った経緯を教えてください。

もともと教育事業がやりたかったのは、「多様なキャリアを支援したい、様々な人の自己実現を叶えたい」という思いがあったからです。そのビジョンはブレることなく最も当事者意識を持てることは何か?を考えた時、新規事業開発における障壁を取り除くことでした。

新規事業は成功率が低く、市場投入の時点で勝負が決まってしまいます。その要因の大多数を占めているのは、「顧客目線でサービスを考えられているか」だと思います。

―とても共感します。顧客検証がやり切れていないための失敗は多いですよね。


特に大企業社内の新規事業の場合は兼務で進めるケースも多く、仮説検証がやりきれていないことが多々あると思っています。事業側は「これをやりたい」「やるべきだ」という思いが強いものですが、思いだけが先行しても市場に受け入れてもらえません。この事業者と顧客のギャップを埋めることが重要だと考え、「顧客リサーチサービス」の可能性を感じました。

―事業検証のプロセスはどのような道のりでしたか?

構想だけは固めた上で、様々な会社に10枚程度の拙い営業資料を添付してメールを送りまくりました。新規事業に取り組む大手企業やコンサルティング会社などのリストを作り、約100社に対して、3名のチームメンバー総動員でメールを送っていきましたね。すると、そのうちで返信率は10%、受注は5社と、想定以上に良い実績が出ました。この時にニーズが確信に変わりました。

「SWITCH」では、一定のフェーズまでいくと「ビジネスとして成り立つか?」を実証する必要があります。そこで3〜4ヶ月でのKPIを設定し、売上目標を達成できたら事業採択してもらえるように提案しました。

そこからは、さらに営業もかけながら事業オペレーションを改善していくことで目標KPIを達成し、事業承認を得るに至りました。説得すにあたっては、事実ベースで今後のサービス成長の数値を提示したり、他社の類似サービスの成長率を示したりしたことも効果的だったと思います。

―KPIを達成するのは大きなプレッシャーがかかったかと思います。一定期間で成果を出せた理由とは何だったのでしょうか?


これまでの仮説検証で、コアターゲットの仮説が見えていたことが大きかったです。既にニーズが顕在化していそうなコミュニティに飛び込んだり、ターゲットとなる方にSNSのDMでコンタクトを取ったりと、リソースを効率よく投下して活動が出来たと思います。

ソーシャルグッドにも貢献する構想

―改めてですが、「uniiリサーチ」のサービスのご紹介をお願いします。

顧客のインサイト収集を行いたい新規事業担当者と、スキマ時間にインタビュー協力出来るユーザーをマッチングするサービスです。クライアント企業からの依頼を受けて、調査の目的をすり合わせ、探し方をご提案した上で、ユーザーを探索します。条件に合うユーザーとマッチングした後はzoomで繋ぎ、インタビューを行った人数単位で課金させていただく形です。

―件数単位の成果報酬型なので活用のハードルが低いですね。


従来のリサーチ会社が提供しているサービスは、すでに潤沢な予算がある既存製品を対象にしているため、どうしても新規事業とは予算が合わないケースが多いです。企業側の予算構造を鑑みて、成果報酬型の方が相性が良いと考えました。

―ユーザーを集めるために実施した戦略はありますか?

インタビュー手法がオンラインなので、ある程度デジタルリテラシーが高い層を対象として「デジタルマーケティングで集客できるユーザー」との相性が良いと考えて、マーケティング戦略に反映しました。また、ご友人を紹介いただくとインセンティブが入るようになっており、「人が人を呼ぶ仕組み」になるよう設計しています。

こだわっているポイントは、ユーザー側との連絡手法をLINEにして、反応率を上げている点です。LINEでのコミュニケーションはユーザーにも非常に好評です。

―成約のたびにNPO団体に寄付する仕組みは、事業としての意思でしょうか?


その通りです。もともと教育事業に関心があったこともあり、意思を持って、子ども向け支援をしているNPO団体への寄付を実施しています。これは単なる慈善的な取り組みということだけではなく、ユーザーからの共感も呼べるのではないか?と考えています。

実際にユーザーからも、スキマ時間に報酬が生まれるのはもちろん、企業の事業開発に貢献出来ることや、NPO寄付への共感の声をいただいています。「協力するのが気持ち良いサービス」として運営していくことは重要だと感じています。

―今後の中長期目線での拡大戦略やビジョンがあれば教えてください。


「企業とユーザーの距離を縮めること」が事業成長に繋がると考えています。今は定性調査に特化していますが、ここは本事業における「1丁目1番地」と考えていまして。他にも新規事業開発における課題は多く存在するので、クライアント企業様の「事業の成功」をゴールとして、順次で領域を拡張していきたいと思っています。

社内起業で重要なのは「信頼残高を増やすこと」

―「社内起業」として事業開発を推進する中での特有の苦労はありましたか?

上場企業の中での新規事業なので、強固なコンプライアンスやルールがあることは、時に足かせとなることもありました。LIFULLのガイドラインの1つに「一点の曇りもなく行動する」とある通り、法令や契約の遵守は徹底的に求められます。スタートアップ企業のように「まずはやってみよう」ということが出来ないことも多いです。顧客だけでなく、社内のことにも意識を向けなければいけないのは難しさでも、醍醐味でもあると思います。

―その中でも円滑に進めるために工夫したことはありますか?


例えばですが、法的観点の回答は1ヶ月以上かかることを想定して動いたり、と全方位で先回り思考で向き合うことに気をつけました。社長補佐時代の経験から各部門のキーマンにすぐに相談出来たり、会社の力学を理解していることで上手くやれた部分も多かったと思います。

―社内の協力者に気持ちよく動いてもらう「攻略法」はありますか?

地道にしっかり「信頼残高」を重要なことではないでしょうか。私の場合は、社長補佐時代だけでなく営業時代の社内人脈や経験も生かせていますが、前提として、「やるべき仕事はしっかりやっていること」は非常に大事だと思います。

また、特に大企業では「経営者の考え」がメッセージとして発信されているのでそこにアンテナを立てておくこともオススメです。会社としてどういう方向に向かっているのか?を読み解くことが出来ると、新規事業開発の舵取りにも役に立つと思います。

「出来心」でも良いので、まずは挑戦を!

―浜岡さんから見た「社内起業」に向いている人のスタンスを教えてください。

「使えるものはなんでも使う」というスタンスです。よく大企業は「潤沢なリソースがある」と言われがちですが、実態としては何かしら制約があるものです。リソースは用意されているようでされていないので、自分から取りに行く必要があります。例えば、今一緒に進めているチームメンバーも、自分で直接声がけして集めたメンバーたちです。「与えられる」という思考ではなく、「情報も人も自ら取りに行く」というスタンスではないと事業推進が出来ないと思います。

また、個人的には、社内起業は「志自体は低くても始められる」のが良いところだと思っていまして。もちろんそのままではいけず、どこかで覚醒する必要はありますが、まずは軽い気持ちからでも踏み出して良いと思います。

―浜岡さんの場合はどのようなきっかけで覚醒したと思いますか?


「SWITCH」に応募した段階では、「まずは挑戦してみよう」くらいの気持ちでした。次に考えたのは、「仲間と成果を出したい」ということです。自分で声を掛けて、賛同してくれた仲間なので、「中途半端にしたくない」という思い徐々に強くなっていきました。そして最後に、クライアントやユーザーが付いてきたことで、「この人たちにもっと幸せになってもらいたい、成功してもらいたい」という思いが湧いてきました。個人→チーム→顧客、と徐々に視点が変わっていったようなイメージです。

―浜岡さん自身の今後のキャリアビジョンはどのように描いていますか?

「自分のキャリア」というよりも、「チームとしてどうなっていくか?」を考えています。中長期では「uniiリサーチ」事業を会社化して、自分が社長として経営に専念しても自走出来るようなビジネスにしていきたいですね。

社内起業では今後のキャリアビジョンに不安を抱く方もいらっしゃるようですが、特に大企業の中では、新規事業の経験がある人はなかなかいないので、逆にキャリアとしての希少性は上がると思います。安心して挑戦すれば良いと思いますよ。

―最後に、大企業で新規事業をやりたいと思っている方、新規事業にチャレンジしている方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。


私自身、少し前までは、このようにメディアに取材いただけるような機会が来るなんて、全く思ってもみませんでした。インタビューの中でもお話したように「ちょっとやってみようかな」という小さな思いから全てが始まったのです。

もし社内で新規事業提案制度などがあって、挑戦出来る機会があるなら、ぜひ挑戦してみると良いと思います。最初は軽い気持ちだったとしても、自分で当事者として事業開発を進めていく中で、勝手に想いと熱量は湧き上がってくるものです。

「出来心」でも良いので、まずは飛び込んでいただくと、絶対に世界は広がると思います。

 

取材・執筆・編集:加藤 隼 撮影:野呂 美帆

浜岡 宏樹-image

株式会社LIFULL

浜岡 宏樹

2014年4月に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)に入社し、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」の営業を4年間経験。社長補佐業務を経験した後に、LIFULLの社内新規事業提案制度「SWITCH」にて入賞。 「ワクワクする挑戦で溢れる社会を創る」をビジョンに掲げて、2020年9月よりオンラインインタビューサービス『unii(ユニー)リサーチ』をリリースし、クライアント企業の新規事業開発の支援に取り組む。

インタビューをWEB上でマッチングする「uniiリサーチ」

https://unii-research.com/

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