Interview

【森永製菓】お菓子の力で、ビジネスコミュニケーションを促進する「おかしプリント」を思いついたきっかけ

【森永製菓】お菓子の力で、ビジネスコミュニケーションを促進する「おかしプリント」を思いついたきっかけ

100年以上にわたって日本の製菓業界を牽引してきた森永製菓株式会社。長年、日本中で愛されるお菓子を生み出し続けてきた。それに加えて時代に合わせた事業・商品開発を行うべく、2014年に立ち上げたのが新領域創造事業部だ。以来、積極的に新規事業開発にも取り組んでいる。

その中から生まれた新規事業の1つが、法人向けノベルティサービス「おかしプリント」だ。ダイレクトマーケティング事業部 事業推進グループでこの事業を手掛けてきた渡辺啓太氏が語る、お菓子がビジネスシーンにもたらす意外な影響力とは。

お菓子がビジネスシーンで大活躍

森永製菓に新卒入社した渡辺氏は、名古屋地区の卸店や小売業向けにお菓子や食品の営業を担当していた。それから3年が経ち、新規事業開発人材を募る社内公募制度に応募したことをきっかけに、イノベーショングループに異動することになる。「森永製菓が持つリソースを使って、新しいことに挑戦したいと考え応募しました」と、当時の応募動機を振り返る。

異動後に渡辺氏が担当したのが、アンテナショップの運営だった。東京駅の地下にある「森永のおかしなおかし屋さん」をはじめ、大阪や沖縄への新規出店と運営だけでなく、商品開発、店舗スタッフのマネジメントなど、店舗ビジネスに関わることを網羅的に学んだ。

アンテナショップの出店と運営に奔走する中で、渡辺氏は自社の課題に直面することもあったという。既存の取引先からオリジナル菓子の製造について相談を受けるも、注文数の少なさが原因で実現できないということが年に何度かあったのだ。

そこで生産量によらず顧客の声に応えられる事業をつくりたいと考え、おかしプリント事業を思いついた。

おかしプリントは「ビジネスコミュニケーションに、美味しい一手を」というキャッチコピーを掲げる法人向けノベルティサービスだ。ハイチュウ、小枝、森永ミルクキャラメルなど、同社の主力菓子のパッケージを独自のデザインにアレンジでき、社内外向けイベントや商談、就職活動などのシーンで活用できる。

いまや大企業から中小企業まで約2,800社が利用しており、累計出荷数は450万セットにもなる。渡辺氏の当初の狙い通り、企業の周年イベントなどで活用されることが多いという。

渡辺氏はおかしプリント事業を推進しながら、お菓子がビジネスの現場で発揮するある効能に気づいたそうだ。

「お菓子には、ビジネスシーン特有のかたい雰囲気を柔らかくする力があります。例えば、会議室にハイチュウや森永ミルクチョコレートなどお馴染みのお菓子を置くことで、お客様の緊張感を和らげることができます。ビジネスにおいてお菓子は、人の距離を縮めるツールになるのではないかとおかしプリント事業を通して気づきました」と、渡辺氏。

これは既存のノベルティにはなかった、お菓子ノベルティだけが持つ唯一無二の価値だ。

1000円のチョコボールが、なぜ売れる?

おかしプリントが生まれたきっかけは、2つある。

1つは、アンテナショップを企画・運営した経験が大きい。

コンビニでは80円程度で売られている同社の主力商品チョコボールが、アンテナショップでは1000円で売れた。いつもと違う特別な場所に置き、パッケージを大きくしたりデザインを変えたりすることで価格が10倍になった。

「訴求する価値を変えると、通常より高い価格でお菓子が売れることに気づいた時、これは大きなビジネスチャンスになるに違いないと直感しました」と、渡辺氏は思いを明かした。もう1つ、顧客からの声もおかしプリント誕生のきっかけになったという。

「以前からオリジナル菓子をつくりたいという要望を、お客様からよくいただいていたんです。しかし1回あたりの発注量が多くなかったので、毎回断わらざるをえませんでした。ニーズがあるのはわかっているのに、うまくビジネスに繋げられず歯がゆい思いをしていました」

渡辺氏は、オリジナル商品を小ロットで生産できる仕組みを整えれば、ニーズをすくいあげられるかもしれないと考えた。

とはいえ、おかしプリントは最初から法人向け事業としてスタートしたわけではない。当時渡辺氏はおかしプリントをBtoB事業で構想していたものの、そのまま始めても話題になりづらく、認知拡大が難しいのではないかと考えていた。

そこで、まずはサービスの認知を広げるために結婚式や誕生日などライフイベントで活用してもらえることを想定したBtoC事業で始めることに。

「思った通り、ローンチとともに数々のメディアに取り上げられ、多くの注文がありました」

BtoC事業を通しておかしプリントのニーズとサービス・プロダクトの検証を行うと、ビジネスとして成立することがわかった。その後、本来の目的である1件辺りの注文数が多く見込めるBtoBに拡大していった。

小ロット、短期納品の壁

このとき渡辺氏がこだわったのは小ロット発注と短期納品だった。中でも最も苦労したのは印刷会社を探すことだったという。

通常、お菓子の生産量は数十万個がスタンダードだが、当時のおかしプリントの場合は10個から。個別の企業名や、オリジナルメッセージの印刷が必要な小ロット発注を引き受けてくれる印刷会社にはなかなか出会えなかった。森永製菓とすでに取引のある印刷会社にも回ったが、扱っているのは大規模な発注がほとんどであり、受け付けてもらえても1個あたりの印刷価格が高額になりビジネスとして成立させられる単価ではなかった。

「最終的に辿り着いたのが、たまたま参加したイベントで出会った名刺専門店でした。名刺は少量でも刷ってくれますし、短期間で納品してくれます」

立ち上げ期、おかしプリントを救ってくれたのは間違いなくこの名刺専門店だったと渡辺氏は強調した。

こうしておかしプリントは、「少量生産には応えられない」という同社の自社課題を解決する新規事業としてスタートすることになった。

イベント0、対面商談0。窮地に追い込まれる

その後おかしプリントは順調に売り上げを伸ばし軌道に乗ったが、そこで直面したのがコロナ禍だった。「人との接触が許されない世の中で、お菓子を配るなんてありえないという空気になりました」と、渡辺氏。

しかも活用事例の多くが会場で実施するイベントだったにもかかわらず、コロナ禍ではオンラインが主流に。対面でのイベントや会議が難しくなり、オリジナル菓子の活用シーンがほとんどなくなってしまった。急な情勢の変化によって、ノベルティビジネスは旅行業界同様に大打撃を受けたのだという。

「広告にお金をかけても効果が期待できない。しかしアクションは起こし続けなければならない、いったいどうすればいいのだろう」、そう頭を抱えた渡辺氏は少しでも問い合わせや注文を得られるよう自社ページに活用事例記事を積極的に掲載し、SEOを強化することにした。これまでBtoC事業が中心だった同社にとって、BtoBマーケティングへの挑戦は新しい試みだった。

緊急事態宣言が解除され、移動についての規制が緩和されるとともに、おかしプリントは売り上げを取り戻すことができたという。「緊急事態宣言が発令されていた頃は、とにかく我慢するしかありませんでした。情勢が回復したことで発注数も徐々に戻り、なんとか事業拡大フェーズに移ることができました」と、渡辺氏は振り返った。

社内起業家は、常に孤独だ

おかしプリントは2021年4月に新領域創造事業部からダイレクトマーケティング事業部の事業推進グループに移管され、本格的に事業拡大に取り組める環境が整った。

実はこれまで、渡辺氏はほとんど1人で事業を推進してきたという。パンデミック直後の2020年4月から1年間、社内のメンバーが加わり3人体制となった時期があったものの、それ以外は1人で事業を推進してきた。奮闘の日々を振り返りながら、「イントラプレナーは、常に孤独だと悟りました」と渡辺氏は語った。

「印刷会社、顧客、ホームページをつくるシステム会社など、全て1人で探しました。コロナ禍に突入した時も、ほとんど1人でその壁を乗り越えなければなりませんでした。常に孤独という言葉が頭の中にありました」

しかし、周囲に助けられたことも多いと続ける。過去にアンテナショップの運営を一緒に担当し、森永製菓発の新規事業を立ち上げた金丸美樹 氏(現 株式会社SEE THE SUN 代表取締役社長)も、社内起業家として渡辺氏を応援してくれたという。金丸氏がノウハウやキーパーソンを紹介してくれたおかげで、スムーズに事業を立ち上げることができたそうだ。

周囲を巻き込み適切な人に助けを求める力を身につけることも、社内起業家にとって必要なスキルの1つなのかもしれない。

渡辺氏にとって、新規事業の醍醐味は何か。事業を手掛ける中で最も感動したエピソードを交えながら、その楽しさを語ってくれた。

「ある企業の工場長が、頑張っている従業員のために『工場長のメッセージ』を添えたオリジナル菓子を発注し、社内で配ってくれたことがあります。おかしプリントを社員との大事なコミュニケーションツールとして使っていただけたのが、この上なく嬉しかったですね。自分のつくったビジネスで、感動的な体験ができたことが新規事業に携わる醍醐味だと思っています」

自ら立ち上げたビジネスで、顧客にたしかに価値を届ける経験を重ねたからこそ味わえた感動なのかもしれない。

最後に、社内起業を志す人へのメッセージを聞いた。すると、小さなコミュニケーションを大事にしながら人を巻き込み、事業を形にしていくことが大切だという「社内コミュニケーション」の極意について語ってくれた。

「新しいことにチャレンジしたい時はまず、社内に自分のことを知ってもらう。面白がってもらえたら、どんどんその人たちを巻き込むこと。社内起業家は、周囲に『こいつにやらせてみるか』と思ってもらえることが大切です」

自らの手でチャンスを得るためには、まずは行動しなければならない。渡辺氏の新規事業立ち上げストーリーから、イントラプレナーに必要な行動やマインドセットが見えた。

取材・執筆:ぺ・リョソン 編集:石川 香苗子 撮影:曽川 拓哉

渡辺 啓太-image

森永製菓株式会社

渡辺 啓太

2009年、菓子・食品の営業として森永製菓株式会社に入社。2012年から新規事業に携わり、アンテナショップの新規出店から運営、未就学児向け知育アプリの開発、株式会社バンダイナムコスタジオと協働でクラウドファンディングを実施するなど、さまざまな新規事業に挑戦。その他、「Morinaga Accelerator」の運営にも携わる。2016年には法人向けサービス「おかしプリント」を立ち上げ、計2,800社以上が利用するサービスに成長。さらなる事業拡大を目指しながら、新しい事業にも挑戦し続けている。

<公式>オリジナルのお菓子なら|おかしプリントby森永製菓

https://www.morinaga.co.jp/okashiprint/