Interview

【コニカミノルタジャパン】新規事業で「理想の世界観を実現する」多動的イントラプレナー

【コニカミノルタジャパン】新規事業で「理想の世界観を実現する」多動的イントラプレナー

ソフトウェア型のロボットによる業務の自動化を手がけるRPAツールの導入や、活用支援サービスを展開するコニカミノルタジャパンの「RPA導入支援サービス」。自社で内製化を実践した取り組みを活かし、RPAツールのライセンス販売のみでなく、導入体制構築や活用支援まで、顧客向けの幅広いコンサルティングサービスを提供しています。これまで社内で様々な新商品の販売に携わってきた経験をもとに、RPA事業の成長ストーリーを描く立役者に、事業の立ち上げについて取材しました。

新商品販売により事業立ち上げの基礎力を身につける

―まずは藤塚さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。コニカミノルタジャパンに入社してから経験してきた業務について教えてください。

大阪のミノルタ事務機販売株式会社(現コニカミノルタジャパン)に入社し、18年間ほどパートナー営業に携わりました。中小企業や地方自治体をメインの顧客層としながら、パートナーに対して営業教育をしたり、マネージャークラスの方々や社長と経営に関する議論をしたりと、時には経営コンサルティングとも近いような仕事を行っていました。

単に複合機などの商品を販売するだけではなく、パートナーと一緒に課題の解決を目指す場面が多かったように思います。

―販促活動だけでなく上流にも関わりながら、売上の向上を目指されていたのですね。

そこから1つの転機になったのが、2011年頃から始めたいくつかの大学との共同研究プロジェクトです。弊社が得意とするドキュメント関連のデジタル化の技術を活用しながら、学習成果のポートフォリオを貯めるシステムを手がけました。
開発後は実際に商品の販売も進めることになり、2014年に本社に異動。しかし残念なことに、この商品が思ったように売れなかったんですよね。

この事例が私にとっての最大の失敗経験になり、大きな転機になりました。

―具体的にはどのような点が課題だったと分析されていますか?

大きな問題は当時の自社の営業スタイルに適していなかった点であったと思います。商品の値段が数千万円と高額で、導入にあたっては専門的なコンサルティングが必要だったり、リードタイムがかかってしまう商品だったのですが、当時の社内ではマーケティングからデリバリーするための体制が十分に伴っていなかったのですよね。

実は私が本社に異動になる前の2012年と2013年、2年連続で「成功事例コンテスト」という社内のコンテストで優勝した実績もありました。「営業マンとしてだけでなくお客様のための事業開発も出来る」という自負を抱いてしまっていたのですが、改めて組織として商品を販売することの難しさを痛感しましたね。この時の失敗をふまえて、とにかく外に出て勉強するようになりました。

―本社に異動されてからはどのような業務に従事したのですか?

様々な業種のマーケティングを強化したり、新規事業を手がけたりする部署に配属になりました。様々な業種に対してマーケティング調査をし、新商品の販売戦略を考えました。グループ会社や親会社を含めると次々と新規事業が立ち上がっていたので、その新商品や新サービスの販売にあたって、マーケティングや市場検証を手がける役割でしたね。

もちろん、すべての新商品の展開が上手くいったわけではありません。自社の技術力の素晴らしさを感じた一方で、世の中を見渡すと、スタートアップのようにとにかくスピードを意識して動いている企業も多く存在しています。そういった企業と比べると、私たちのスピード感は遅かったように思います。

―新商品を展開する際は、具体的にどのような手順で進められていましたか?

商品のプロトタイプがあるかないか、くらいの初期の段階から「まずはお客様に実際に試していただく」ことを重視していました。テスト販売を含めて、とにかく市場で検証するようなイメージです。その時に得られた反応に応じて、商品の仕様や値段、プロモーションや販売チャネルを変えていました。試行錯誤する中で、こちらから営業をしなくても、相手から「欲しい!」と言っていただけるようなレベル感まで、プロダクトの質を磨きあげることの重要性も実感しました。

また、「ないと困るからお金を支払いたい」というレベルのニーズと、「あくまであったら便利」というニーズの間には、とても高い壁があることも実感しました。そのあたりの肌感覚を学ぶために、常日頃から新規事業に関わっている社外の起業家やスタートアップの方々と積極的に交流するようにしていましたね。さらに、大企業の一社員として勤務しているだけではビジネス全体のお金の流れや経営感覚が得られないと思い、複業として自身でも会社も立ち上げました。ビジネスを作るために必要なノウハウを日々そこで吸収するようにしています。

―社内だけではなく、社外でも独自に事業開発の活動をされていたのですね。

弊社が得意とする複合機のビジネス自体は50年近く変わっていない部分も多かったので、決して新規事業のノウハウが豊富とは言えない状況でした。そこで、とにかく社外に出て学ぶことを意識していました。

このように、様々な新商品の販売やマーケティングを手がけながら、自分で知見も溜めた上で、「RPA導入支援サービス」の新規事業立ち上げに携わりました。

社内の実践経験をもとに、RPA事業を立ち上げる

―もともと新事業の立ち上げにはご関心をお持ちだったのでしょうか?

キャリアを振り返ってみると、過去に自分が企画・開発した商品の販売に失敗してしまった経験から、事業の立ち上げ自体にも興味を持っていました。

また、プライベートで得た経験も、大きなきっかけになっているような気がしています。実は、会社員として勤務する傍ら、35歳頃まではバイクレーサーとしても活動を続けていました。自分でチームを作って企業スポンサーにもついていただいていたのですが、最初はなかなか成果をあげられなくて。ですが、様々な方々からのサポートのおかげで次第に結果も出るようになりました。その経験から「大きな目標に向かってチーム一丸となって進むこと」の醍醐味を感じることが出来たように思います。

―新商品の販売に数多く関わられていた経験も、事業立ち上げに活きていそうですね。

おっしゃる通りで、これまで色々な商品やサービスの販売をしてきた中で、商品単位ではなく、事業単位で成果を出したいという想いも膨らんでいました。

様々な企業がペーパーレス化を進めている中、私たちのように複合機を扱う業界の未来は決して明るいとは言えない状況でした。そこで当社もグループ全体で幅広く新規事業を手がけ始めていた機運があったので、ぜひ自分も挑戦したいと思い企画を考案し、RPAの事業を進めることになりました。

―立ち上げた「RPA支援サービス」とは、どのような事業なのでしょうか?

RPAとはロボティック・プロセス・オートメーションの略称で、ソフトウェア型のロボットによる業務の自動化を手がけるツールを示します。その領域の中で、私たちはRPAの導入支援のみでなく、運用/活用の支援までを手掛けています。

国内でもRPAツールを取り入れる企業自体は増えてきているのですが、その多くが「個人のパソコンの自動化」レベルに留まっていたりして、目指すべき「組織を横断した業務の自動化」までは達成できていない点が課題となっています。

その中で、私たちはRPAの販売自体が目的ではなく、お客様の社内で「活用していただくこと」を目的としています。

―たしかに上手く活用できていない事例は多いように思います。

実は弊社は、自社として2017年からRPAによる業務改革を進めており、年間で「約5万時間」の業務削減を実現している実績があります。もちろん数々の失敗も経験しましたので、そういったノウハウが溜まっている点に着目し、サービスの立ち上げを進めていきました。

立ち上げ当時、社内には約3人のRPA推進チームがいて、ナレッジもアーカイブされていました。そこで半年ほど準備を進め、2019年10月にサービスを開始。導入前のカウンセリングから導入後の展開に至るまで、お客様の段階に応じたプランを提供しています。

―社内ノウハウを元に外販サービスとして汎用化されたプロセスは素晴らしいですね!

「自社の失敗経験を踏まえてサービスを開発し提供する」というマインドは、コニカミノルタジャパンの社員に深く染み付いています。

コニカミノルタジャパンという会社全体で言うと、オフィスに関するコンサルティングから物件探し、複合機やペーパレス、テレワークに関する商品の販売など、幅広い商材を扱っています。その根底には、自社で実践したノウハウをお客さまにも提供するというマインドが強くあるように思います。

―将来的にはどのような事業展開を見据えていますか?

最終的には、現在のRPA支援サービスのようなITのツールだけでなく、人の労働力の代わりとなるロボット等のサービスとして提供していきたいと考えています。

「バディ」のような感覚で、ロボットと人間が協働することが当たり前という世界観の実現に貢献していきたいですね。そのように、大きなスケールで業務の効率化につながるサービスを展開し、人々の生産性や創造性を高めることができたら嬉しいですね。

社内起業家としての働き方

―大企業の中で新規事業に取り組む際には、良いことも悪いこともあると思います。藤塚さんが考えるメリットとデメリットについて教えていただけますでしょうか?

大企業としての看板やブランド力は、様々な場面で大きな助けになりました。社外に対して、まだ構想レベルでしかない新規事業について話をしても、初期からある程度の信頼はしていただけるという点は非常に大きな強みですよね。

デメリットとしては、社内に関係者が多くなってしまった場合、意思決定が遅くなったり慎重になり過ぎてしまったりする傾向があると思います。すると事業展開のスピードが遅くなってしまうので、その点を意識した意思決定の早い組織づくりと、何が何でもやってやるという起業家マインドが必要だと感じています。

―RPA導入支援サービスの立ち上げに関しては、特にどのあたりに苦労されましたか?

どうしても大企業ならではの文化はありましたので、その振る舞いのままで新規事業を進めてしまうと、社内調整にもかなり時間がかかってしまうことは目に見えていました。

そこで私たちは、出来るだけ小さなチームを形成し、コンパクトなスタートアップのようなイメージを持って、事業立ち上げを進めるようにしていました。基本的にはメインの3人が企画からサービスの実装、実際のお客様へのマーケティング活動やアフターフォローなど、全てに責任を持って回していくという体制ですね。

―藤塚さんが考える、企業内から新規事業を生み出す上で大事なことは何ですか?

新規事業を立ち上げる上では、製品の根幹の技術力だけでなく、現場やお客様と対峙する中で積み上げてきた経験と、何よりも「この課題を解決したい!」という想いが必要だと思います。

現在弊社の中では、技術部門のみでなく、営業部からも新規事業/新商品を起案できるような仕組みを整えています。このように、仮に現場の営業社員だとしても、それぞれが当事者意識を持って考えていくことが重要だと考えています。

―藤塚さん個人のキャリアとしては、今後はどのようなビジョンを描いていらっしゃいますか?

現在の事業に関しては、しっかりと数字を見極めながらこのまま成長させていきたいです。また、個人のキャリアとしては、二足や三足のわらじを履くのが当たり前の世界をつくっていきたいですね。

現在のように価値観が多様化している状況を踏まえると、1つの会社の中で「自分の本当にやりたいこと」を全て成し遂げることよりも複数のコミュニティに所属しながら、それぞれで自分のやりたいことを実現できるという選択肢があったら、とても良いサイクルが生まれるように思っています。

―良いサイクルが回って相乗効果が出てきそうですよね。

私自身もサラリーマンを続けながらバイクのレーサーとして活動したり、複業をしたりしてきましたが、それぞれの良さがあり、とても充実した時間を過ごしてこれたと思います。コミカミノルタの中では出来ないことが、他の場所でなら実現出来る場合もあります。そしてそれぞれから得た経験が、互いに活きてくる。

そこで重要になるのが、「個人がやりたいことに時間を費やせるような仕組み」ではないでしょうか。このような想いと原体験があって、「作業時間」を減らせるRPAサービスに注力してきました。

―ご自身の経験や想いが起点となって、新事業が生まれていたのですね!

複業を認める会社も増えてきましたし、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、働き方や生き方に関する価値観も多様になりつつあります。色々なことにチャレンジしている方もすでに多くいらっしゃると思いますが、私の周りを見てみると、まだまだプライベートの時間を削って「副」業をしているような方も多いのが実情です。だからこそ、無駄の多い単調な仕事をどんどん効率化できるようなシステムを広めていきたいと思っています。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。

「主体的に事業にコミットする」という姿勢を忘れずにいてください。社内起業家として事業を始めると、様々な課題に直面したり、会社との折り合いをつけるのが難しかったりする場面も多くあります。そういう時に「自分が主導してやっているんだ」という認識をもつことが出来ると、その後の結果も大きく変わってくるはずです。

さらに、社内であっても新規事業を進める上では、スピード感も大事なポイントだと思います。大きい企業になればなるほど社内での調整に時間がかかりがちではありますが、それでは周りのスタートアップ企業等に大きく遅れを取ってしまいます。「全てにおいてスピードを優先する」くらいの気構えを持って、果敢にチャレンジを仕掛けていただきたいと想います。

編集後記

コニカミノルタジャパンが持つアセットやノウハウ、そして過去の自身の失敗/成功経験も最大限に活用しながら、自身の想いを燃やせる新規事業への挑戦を続ける藤塚さんに取材をしました。

ご自身の経験や想いを起点として、自分の理想とする世界観を描き、新規事業を立ち上げた今回のストーリーからは、社内起業家を目指す方々にとっても重要なヒントが多くあったように思います。

人々や企業の創造性を高めるためのチャレンジを続ける、コニカミノルタジャパンの「RPA導入支援サービス」の今後の展開に、引き続き注目したいと思います。


取材・編集:加藤 隼、永山 理子 執筆:土橋 美沙 撮影:川上 裕太郎 デザイン:村木 淳之介

藤塚 洋介-image

コニカミノルタジャパン株式会社

藤塚 洋介

1996年にミノルタ事務機販売㈱(※現コニカミノルタジャパン㈱)に入社後、関西エリアの営業現場で複合機やITソリューションの販売経験を経て2014年から新規事業の立ち上げに従事しグループの様々な新規事業に関わる。 現在は国内のデジタルワークフォース事業のリーダーとして自社実践のノウハウを活かしたRPA・AIサービスを企画・運営。 また、社内の副業制度を活かして2018年にwayslinks㈱を創業しマルチワーカーとしても活動中。