Interview

【パーソルキャリア】新規事業を科学するサービスデザイナーが唱える「UXデザイン」の重要性

【パーソルキャリア】新規事業を科学するサービスデザイナーが唱える「UXデザイン」の重要性

新規事業の成功において大事な一つの要素は、“客観的な視点”だ。「24」ものサービスを同時開発することを数値目標においているパーソルキャリア株式会社の開発統括部。90人以上もの人材が同社の新規事業開発に関わる中で、常に“客観的な視点”で問いかけながら事業創出をサポートしている2人が、サービスデザイナーの高橋と長谷川だ。プロジェクトの立ち上げからグロースまで、社内企業家に積極的に伴走する、彼らの仕事への取り組みを聞いた。

「24」の新規サービス開発目標

―サービスデザイナーとして様々な新規サービス開発に携わるお二人。この職種に至るまでのキャリアは?

高橋:パーソルキャリアに入社する前は、デジタルマーケティング企業でUXディレクターとして、企業ブランディングや課題解決の戦略策定・価値提案に取り組んでいました。ECサイトやメディア、医療・IT・メーカーなど幅広いサイト制作を経験。一方で、1人で提案をまとめながら開発するスタイルに疑問を持つようになりました。

VUCA時代、ユーザーの興味はモノからコトへとシフトする。サービスの賞味期限も短く、柔軟で素早い対応が必要です。時代のニーズに応えるサービスを作るには、サービス・事業そのものの意味や目的、価値の根本に立脚することが求められる。これを実現するには、多様な専門家が共創しサービスを生み出すしかないと思うんです。パーソルキャリアは、90名近くで本格的に新規事業に取り組める。多様性のあるメンバーが集まっていることも魅力でした。

長谷川:私は大学卒業後、モバイルアプリの企画開発やグルメテック企業の立ち上げを経験しました。0から1を生み出す経験は出来たものの、リソースがない中での壁は多い。パーソルキャリアのような甚大なリソースのある環境下で、新規事業を生み出せることに惹かれて入社しました。

―パーソルキャリア株式会社サービス企画開発本部について

高橋:大きく企画統括と開発統括の2部署に分かれています。企画統括は企画立案を行うプランナー、進行をしていくディレクターが所属。開発統括は、UI/UXデザイナーやサービスデザイナー、UXリサーチャー、エンジニアなど実際に企画を形にして行く部署です。

その中でも開発統括部は、「24ものサービスを同時開発すること」を成果目標に置いています。新規事業の立ち上げにおいては、①企画②仮説検証③ローンチ④グロース/市場拡大の、4つのフェーズに分かれています。サービスデザイングループは、これらのフェーズを横断してサービスが機能するよう、課題解決や体験設計の支援などを行っています。

高橋 靖正

―どのような人材が集まっているのか?

長谷川:企画統括と開発統括の人数比は半々くらい。中途採用で入社してくる人も、社内公募制度「キャリアチャレンジ」を活用して社内異動してくる人もいます。パーソルキャリアは自らの可能性を知り、「はたらく」を自ら選択できるように支援することをミッションとしており、サービスの対象顧客は労働人口6,700万人。そこには若い世代も含まれます。だからこそ、20代でサービスのプロダクトオーナーを務めることも。年齢関係なく裁量やチャンスのある環境だと思います。

―持続的にアイディアを生み出し続ける仕組みとは?

高橋:弊社でも試行錯誤中ですが、現在採用しているのは2つの方法です。1つ目は、パーソルキャリアのミッション実現のために必要な領域を設定、そこに合うサービスを考えて行くもの。

もう1つは、サービスオーナーが自ら進めたいアイディアを起案し、企画提案書を書いて提出するものです。この2つの方法で、アイディアを生み出しています。

新規事業における「UXデザイン」の重要性を啓蒙

―UXデザイン部サービスデザイングループの実務とは?

長谷川:先ほど高橋からお伝えした、①企画②仮説検証③ローンチ④グロース/市場拡大の4つのフェーズ全てに携わっています。例えばアイデア段階であれば、オーナーの企画書のブラッシュアップ等の実務支援も。UXデザインの専門家として、サービスの上流部分において顧客の体験価値を何に置くのか?など、戦略策定のサポートをしています。検証フェーズでは「デザインスプリント」というプログラムを実施。課題や顧客を改めて見直し、短期間で検証まで行います。全サービスがこのプログラムにて、1度は必ずサービスデザイングループと関わる仕組みとなっています。

長谷川 椋平
長谷川 椋平

―UXデザイン部の創設はいつから?

長谷川:2019年に新設されました。UXデザイン部が出来る前の新規事業開発は、「UI」のデザインに集中しがちでした。しかし、本質的には「どんな体験価値を提供するか?」を思考することが重要です。サービスデザイナーが加わることで、サービスの上流部分でのデザイン思考の機会を提供できていると思います。実際にユーザーの声を聞き、体験価値を思考する。このようなUXデザインの重要性を啓蒙しています。

―サービスデザイナーとして印象に残っている仕事は?

高橋:エンジニアを対象顧客としたサービスを長期間支援していたのですが、仮説検証時にユーザーから想定通りの評価を得られなかったことがありました。押し切ろうと思えば押し切れたかもしれませんが、もう一度ターゲットやコンセプトを見直すことに。試行錯誤を重ねた結果、尖ったコンセプトが生まれ、ユーザーインタビューで良い評価を得られることができました。まさにUXデザインの重要性を実感した機会でした。新規事業は失敗が多いもの。その中でどのように気づきを得て、やり直せるか?が重要だと感じました。

長谷川:転職者同士が繋がるコミュニティサービス「転職同期」に携わった時、メンバーそれぞれが重要視する軸がずれていってしまったことがありました。そこで全員が考えている未来を絵やテキストで書き出し、改めてサービスのビジョン・ミッションを見つけるワークショップを実施。各々の大切にしている共通項からミッションを導き出すことで、議論の軸がぶれることはなくなりました。様々な専門家がジョインしている環境下で、共通言語を持つことでUXデザインがまとまる。サービスデザイナーのミッションを再認識した出来事でした。

―サービスデザイングループとして今後目指していることは?

高橋:複数のサービスを生み出し続けることがメインミッション。質と量を担保していく必要があると思います。サービスデザイナーとして、より様々なサービスに深くコミットしていきたいです。

長谷川:関わる案件が多く、なかなか手が回らないのも実情。我々がコミットできない時にもプロジェクトメンバーが参考にできるガイドラインを作ることも必要だと思います。誰もが一定以上のクオリティを担保できる仕組みを作ることで、できるだけ多くのサービスを最後のフェーズまで持っていきたいです。

プロフェッショナルが共創しイノベーションを起こす

―様々な新規事業を支援することのやりがいとは?

高橋:ありきたりな言葉なのですが、0から1を生み出すことに特化できることでしょうか。私は多様なメンバーとチームになって共創することを重要視しており、メンバーと試行錯誤することで良いサービスが生み出せると考えています。正解がない中で毎回苦労しますが、その中でサービスを生み出していくことに楽しさを感じています。

長谷川:幾つものサービスにおいて、「誕生」の瞬間に立ち会えることですね。どの瞬間を「誕生」とするかは人それぞれですが、私は「コアな価値やUXが決まる瞬間」だと思っています。自分自身で起業した時もサービスの誕生に立ち会いましたが、その機会は限られています。様々なサービスに同時並行で関わり、メンバーみんなが「これはすごいサービスができる!」と確信する瞬間に何度も立ち会える。それがこの仕事ならではの体験だと思います。

―支援に関わる中で苦労するポイントは?

高橋:「制度設計のリニューアル」を行うプロジェクトには苦労しました。事業のマネジメント制度という根幹のリニューアルは、事業の生き死にに関わるもの。特に重視したのは、「プロダクトマーケットフィット」の考え方です。市場から本当にサービスが受け入れられているのか。サービスにとって重要な評価ですが、この評価の仕方が非常に難しい。今の組織の中で、いかにこの評価方法を合意してもらうのか。様々な部署と時に激しく議論を重ね、コンセンサスを取りに行きました。

―市場に対する価値提供の基準はどのように判断しているか?

長谷川:サービスオーナーはどうしても自分の事業に愛着があり、バイアスがかかってしまうもの。だからこそ、ユーザー検証やテスト運営を通して、徹底的にモニタリングして意見を出し合います。サービスデザイナーはもちろん、リサーチャーや他のサービスオーナーなど、様々なプロフェッショナルの意見を集めて集合知で判断できるのがパーソルキャリアの強み。「組織全体でバイアスを払っていく」という共同体制が大事だと思います。

失敗を許容できる組織づくりを

―大企業の中で持続的に新規事業を立ち上げるポイントは?

高橋:大企業は、ベンチャー、スタートアップ企業のような強烈な情熱がエンジンになりにくい。だからこそ、最後までメンバーが走りきれる「仕組み」を担保することが重要です。多様で優秀なメンバーが共創することで、創造的なサービスを生み出し続けることができると思います。

長谷川:大企業内に限らずですが、投資を受けたり、様々な部署を巻き込んだりする必要があるため、人を説得させる力のある人物をチームの中心に据えることは大事だと思います。

―多数の新規事業を支援する二人から見て、社内起業に向いている人物とは?

高橋:社内起業に向いている人材は、3つの要素があると思います。まずは、世の中でまだ見えていない課題に気付けること。そして前例がない中で、重要性をロジカルに伝えられる思考力。最後に、必ず自分がそれを社会に実装しなければならないという熱意。これらが備わっている人が、事業を推進していくにあたって必要だと感じます。

―個人としての今後のキャリアビジョンをどう描いているか?

長谷川:サービスデザイナーとしてのスキルはどの会社でも通用する、廃れないものと考えています。支援する側としてはもちろん、自身が事業を立ち上げる際にも役立ちます。だからこそ今の経験を大事にしています。また、今後はプロダクトオーナーも経験したいと思っています。そこを視野に入れると、まだまだ自分には開発運用の経験が足りない。事業グロースフェーズにおけるオペレーションやディレクションの経験も積んでいきたいです。

高橋:「人の成長を支える」「社会に取り残された人を作らない」のが自分のビジョン。個人としてはこれを達成することが目標です。サービスデザイナーとしての専門性を続けながら、パーソルキャリア内外で、多様な「人を繋ぐ仕事」を増やしていきたいです。

―社内起業に取り組んでいる方や、その支援を行っている方々にメッセージを。

高橋:新規事業は決して1人ではできません。チームで推進していく中で、みんなが共感できるビジョンを掲げることはとても重要だと思います。そのビジョンがあることで、サービスをリリースまで持っていく道標になってくれるのではないでしょうか。

長谷川:新規事業には失敗がつきものです。だからこそ、いかに素早く上手く転ぶか?が大切だと思います。挑戦回数を増やすことも必要ですが、闇雲に挑戦するのではなく失敗から何を学ぶかがポイント。また、周囲も失敗をポジティブに理解してほしいです。周りも本人も最後まで諦めない、失敗を許容できる組織づくりが重要だと思います。

 取材・執筆・編集:加藤 隼 撮影:野呂 美帆

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パーソルキャリア株式会社

高橋 靖正

デジタルマーケティング企業にプランナー、UXディレクターとして勤務。BtoB・BtoC、EC・メディア・企業・医療・IT・メーカーと、幅広いサイト制作を経験する。また並行して慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)にて、デザイン思考とシステム思考アプローチのイノベーション研究、チームパフォーマンスの研究を行う。パーソルキャリア株式会社に入社後、UXデザイン部サービスデザイングループに配属。

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パーソルキャリア株式会社

長谷川 椋平

大学在籍時に投資会社でのインターンを経験。卒業後、モバイルアプリの企画開発を手がける。立ち上げたグルメテック企業でチーフデザインオフィサーを務めた経験から、新規事業におけるデザインの重要性に気づく。潤沢なリソース下での事業開発の経験を得るため、2020年1月にパーソルキャリア株式会社に入社。