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【gooddo】ソーシャルセクターを盛り上げる新規事業への挑戦
株式会社セプテーニ・ホールディングスの子会社として2014年に設立されたgooddo株式会社。誰もが気軽に社会貢献に参加できる仕組みを取り入れ、社会課題の認知度の向上や国内の寄付文化の醸成などに取り組みながら、着実に事業を拡大しています。その立ち上げの裏側には、ソーシャルセクターの可能性を信じてチャレンジをし続けた社内起業家の存在がありました。
▼目次
黎明期のSNS事業立ち上げでの経験
―まずは下垣さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。セプテーニに入社してから経験してきた業務について教えてください。
2006年に新卒でセプテーニに入社しました。最初の配属はインターネット広告の営業で約4年間携わりました。当時は夜遅くまで働くことも多く、忙しいながらも、楽しく働いていましたね。
―営業の仕事をされた後は、どのような部署に異動されたのですか?
ソーシャルメディア部という新しい部署の立ち上げに携わりました。立ち上げ当時の2010年前後というのは、SNSがやっと少しずつ流行り始めていた頃です。Twitterは普及し始めていましたが、まだまだFacebookの認知度は低かったような時代。
しかし、今後は必ず国内でも浸透するサービスになると見込み、この領域に専門で注力する部署を立ち上げることになったという背景です。
―まさにSNS黎明期ですよね。面白そうなチャレンジだったと思います。
新卒から約4年間営業の仕事に携わる中でマネージャー職まで経験し、ちょうど「何か新しいことに挑戦したい」と考えていたタイミングでした。
ソーシャルメディア部には、2010年から2012年までの約2年間在籍したのですが、2011年に発生した東日本大震災をきっかけにしてSNSが果たす役割が見直され、認知度も少しずつ上がっていったのを肌で感じることが出来ました。
―ソーシャルメディア部への異動はご自身で希望されたのでしょうか?
社長に直談判したことが異動のきっかけになりました。
まだ営業の仕事に打ち込んでいた頃、今後はスマートフォンの時代が必ず来るだろうと考えていて。そんな時に尊敬する先輩方との飲み会の場で「今後スマートフォンやソーシャルメディアに関する部署を立ち上げられないだろうか」と自身の想いを何気なく口にしたのです。すると「それはちゃんと提案してみなよ」という話の流れになりまして、次の日の朝、早速社長にメールを送りました。
―社長に直談判できる文化は素晴らしいですね。その後の返事はいかがでしたか?
タイミングがちょうど良く、役員が集まる経営合宿が予定されていたようで「検討します」という返事を受け取りました。
その後、提案してから1ヶ月くらいでソーシャルメディアに注力しよう、という方針が決まりまして、私が立ち上げに携わることになったのです。
―実際に事業を進める中でどのようなことを感じましたか?
ソーシャルメディアについて勉強すればするほど、今後の世の中が劇的に変わる兆しを感じました。個人が発信する情報を通じて、全てのことがよりオープンになる時代が到来するのではないかと思ったんです。
この変化によって、商品を売りたい企業は生産に関わる過程を透明化する必要が出ると思いました。例えば環境に悪い商品であったり、製造過程で児童労働などの問題が発生していたりしたら、きっと個人発信の情報を通じて明るみになる。そうなると企業に対する見方・企業価値は変わってくるだろうと。そういった意味で、ソーシャルメディアはまさに革命的なツールだと感じました。
―情報の統制がしにくくなるということですね。
まさにその通りです。情報を隠せない社会になると、本質的に良いものでないと売れなくなる時代がくる。ソーシャルメディア事業を立ち上げる中で、このことを確信的なシナリオとして感じたんです。その中で、社会貢献や社会課題を解決する事業など、ソーシャルセクターのポテンシャルの仮説を立てて、現在の新規事業のアイデアにも繋がっていったのです。
伝え続けた新規事業への熱い想い
―gooddo事業はどのようなプロセスで立ち上げていったのですか?
ソーシャルメディア部にいた頃に新事業のアイデアを社長に提案したのですが、「まずは目の前の事業に注力してほしい」と言われてしまいました。
ですが、「個人でも何かしらの活動が出来ないか」と考えて、プロボノのようなかたちで、社会貢献に関するビジネスに関わり始めました。
そこから2年後の2012年には、事業規模の拡大に伴いソーシャルメディア部の組織も30人規模にまで拡大して、自分がいなくても仕事が回る状態になっていたので、再度社長に対して社会貢献に関する新事業の提案をしました。
―なぜそこまで熱量を持ち続けることが出来たんですか?
「今後は本質的に良いものだけが適切に評価され、生き残っていく世の中になる」という仮説は2年間ぶれませんでしたし、むしろその仮説が確信になりつつあったので、とにかく挑戦してみたかったというのが本音です。
そして念願が叶って想いが伝わり、社長や周りの責任者から承諾を得て、2012年10月に新規事業部に異動しました。
―素晴しいですね。どのような事業アイデアで起案したんですか?
具体的な事業は決まっていませんでしたが、「NPOやソーシャルセクター向けのビジネスを立ち上げたい」と考えていて。当時は、NPO=ボランティアとして捉えられている側面が強かったので、反対意見も覚悟していましたが、社長からは承諾を得ることができました。
―確かにビジネスとしては厳しく見られそうですよね。
その時に社長からもらったコメントは、今でも心に残っていますね。
もちろん投資する立場としてはビジネス観点も見るという前提はありましたが、「何をやるかというのは何をやりたいかに直結していて、正解や不正解というものさしで判断するものではない。お前がそれを本当にやりたいのであれば、やりなさい」という応援メッセージを受け取りました。
―それは素敵なメッセージですね!
社長が経営者として長年色々な方を見てきたなかで、成功に近づける人に共通していたのは、「辛く苦しい経験を乗り越えられるかどうか」という点だったようです。儲かりそうだから取り組むという話ではなく、やりたいという気持ちが本当に強いと、たとえ辛い時でもきっと目の前の事業を続けられものですよね。
―とても共感します。その後はどのように事業開発を進めていったのですか?
次のステップは、半年以内に役員陣にプレゼンを行って、事業としての立ち上げの了承を取ることでした。
その半年間はNPOやステークホルダーの方々など、とにかく色々な人に話を聞きに行って、事業の構想を練りました。プレゼンには苦労する部分もありましたが、無事に承諾を得て、2013年3月に事業化が決まりました。
―特にどういった点に苦労されましたか?
当時、社長以外の役員からは猛反対されていました。「NPO向けの新規事業を考えている」と言った途端に「それは本当にビジネスとして成立するのか?」という質問が殺到しまして。
私はとにかくシンプルにブレずに、ソーシャルセクターが持つ可能性や意義についての想いを、根気強く伝え続けました。役員の中には懐疑的な方もいたように思いますが、最終的には根負けのような形で、「まずはやらせてみるしかない」という判断で了承を取ることが出来ました。
試行錯誤の末に発明したビジネスモデル
―改めてgooddoの事業について詳しく教えていただけますか?
社会貢献プラットフォーム「gooddo」の運営や、NPO/NGOなどに対する広報の支援、コンサルティングなどを手がけています。また、自社メディア「gooddo マガジン」では社会課題を解説したり、課題の解決につながるアクションを紹介したりしています。まずは多くの読者に社会課題を知ってもらうことが、1番の目的です。
―1つ1つのコンテンツをとても丁寧に作り込まれている印象を受けました。
ありがとうございます。
社会問題をインターネットで調べると、国や行政が発表している難しい文章か、ニュースの情報しか出てこないケースが多いため、分かりづらいなと感じていました。そのため、誰が見ても理解しやすいようにコンテンツの内容を工夫し、まずは問題の概要を解説するようにしています。
さらに大切にしているのは、社会課題を知るだけでは終わらずに、そこからアクションにつなげること。「gooddo」という媒体名は「Do」という行動につなげることを意識して命名しました。
―読者の興味の先にある行動を促されているのですね。
テレビ番組などのマスメディアは「情報を伝える」という点においては有益ですが、「1人1人が取り組める解決策の提示がない」という部分に関しては、改善の余地があると思います。
例えば、何かの社会課題のトピックを議論する際も、最終的には「国や行政が何かしなくてはいけない」という結論でまとまってしまうことが多いのですよね。ですが、突き詰めて考えていくと、個人レベルのアクションが生まれない限り、現状が大きく変わることは難しいのではないかと考えています。
私たちのメディアでは、まず社会課題の存在や、その課題を解決しようと思ってるプレイヤーがいることを伝えた上で、その人達を応援できる仕組みも整えています。読者がオンライン上で簡単なアンケートに答えると、私たちからNPOに10円の支援金が寄付される仕組みなどを展開しています。
―寄付システムはどのような経緯で考案されたのでしょうか?
当初はCSRの一環としてブランドイメージ向上を目指す企業にスポンサーについていただき、NPOやソーシャルセクターに支援金を寄せる仕組みを構築していました。私たちは広告やマーケティングに強みがあるので、SNS広告やアフィリエイトの仕組みを組み合わせて導入したりしていました。
しかし、企業にとってCSR活動はビジネスにおける「センターピン」ではないので、1回きりで予算がなくなってしまう場合もありまして。
企業からのスポンサーを継続的に集めるとなると、かなり力を入れて営業しなくてはいけないとわかってきました。
―継続性が乏しかったのですね。
はい。一方で、並行して進めていたのがNPOやソーシャルセクターとの協業でした。
立ち上げにかなり苦労しましたが、彼らにとっては寄付や支援の募集は、ビジネスの本丸になるのですよね。本質的に考えると「絶対に彼らと組んで勝負すべきだ」という確信があったので、試行錯誤しながらも進めていきました。
―ビジネスモデルはどのように組み立てられたのでしょうか?
掲載されている活動団体やコンテンツの内容を詳しく知りたいとなった場合は、読者の方を活動団体自身のページに誘導するようにサイトを設計しています。また、広告を通じてそれぞれの活動団体に興味をもっていただくマーケティング活動も行っています。
重視しているのは、社会課題やソーシャルセクターに関心を持ちそうな潜在層に対してアプローチし、実際のアクションに繋げることです。
―NPO側からすると、活動を知ってもらい広く支援を募るマーケティングという感覚でしょうか?
そうですね。また、私たちは単発の寄付を募るのではなく、少額でも月額継続型の寄付を推奨するようにしています。LTVベースで成果の単価設定がしやすくなるほか、まとまった金額を1度に寄付するよりも、少額寄付を継続する方が寄付する側のハードルを下げることが出来ます。NPOはリスクのある先行投資がしにくく、少額でも積み上げていける財源を求めているという実情も含めて、このようなモデルを組み立てました。
―同様の仕組みはNPOやNGOなどの分野では珍しいのでしょうか?
海外や国際機関などでは、このようなビジネスモデルは市民権を得ていますね。海外だと単体のNPOでも非常に大きなパワーを持っているので、一般の企業と協業して、広告のプロモーションに多額の資金を投入したり、マーケティングをして寄付を集めたりすることが当たり前になっています。
日本の場合は、そもそもマーケットがまだ未成熟ですし、寄付をしたことのない人も多いので、すぐには大きな成果が見えてこないという課題もあります。
―国内の現状の寄付マーケットをどのように見てらっしゃいますか?
SDGsなどの概念も広がりつつあり、この5、6年で確実にマーケットが拡大してきたと思います。NPOやNGOの活動が社会でも注目を集め、優秀な人材も集まってきていますね。例えば、5年前にマーケティング費用を月間30万円しか出せなかったNPOが、今では月に1,000万円レベルの額を活用し寄付を集められるようになってきています。
ですが、より多くの人にソーシャルセクターの活動を知ってもらう必要性も感じています。そのため6期目を迎えた2020年6月に、私たちはCIを刷新しました。NPOとの取り組みが少しずつ形になってきたので、次はマルチセクターとの協業を目指していきたいですね。
例えば、スポーツと社会貢献は相性が良いですし、大学の研究開発や教育分野のほか、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発にも、民間から多くの寄付が集まっています。
弊社のビジネスについて他の業界の方々と話す際にも理解していただけるケースが増えてきているので、世の中の流れを上手く掴んでいきたいと思っています。
社内起業家としての働き方
―事業を立ち上げられて6年ほど経ちましたが、下垣さん自身のWillや想いが変わりそうになったことはありませんでしたか?
最初はうまくいかないことが非常に多かったので、ブレそうになった時期はありましたね。事業継続のために会社として達成しなくてはいけない最低限のルールがあったので、そこは根性でクリアしていきました。
包み隠さずに話しますと、これまでと比較して年収が落ちた時期もありました。事業がなかなか上手くいかない、周囲から理解もされない、業績も悪いし、給料も下がる。こんな状態が続くと、さすがに辛くなりますよね。
ですが、それでも続けてこられたのは「自分が信じるビジネスを続けたい」という強い想いがあってこそでした。自分の事だけを考えたらもっと楽なビジネスがあったようにも思いますが、新規事業を始めた時に「この領域で一生挑戦しよう」と決めていた気持ちが、辛い時の支えになりました。
―個人のキャリアについて不安を持ったこともありましたか?
幸いにもそういった不安はありませんでした。私の場合は自分の能力に自信はあったので、事業が失敗してもまたどこかで勝負できるだろうと考えていました。
ソーシャルセクターに関する事業が、「本当に拡大していくのだろうか?」という不安はありました。ですが怖がっていても仕方がないので、とことん突き詰めるために走り続けたことで、少しずつ結果が見えてきたように思います。
―大企業において新規事業に取り組む中で、良いことも悪いこともあると思います。下垣さんが考えるメリットについて教えていただけますでしょうか?
セプテーニグループの中でなければ現在の事業に挑戦できなかっただろうと考えているので、まずはそのことが1番のメリットですね。自己資本で事業を続けたいと思ったとしても、なかなか継続出来なかったのではないかと感じています。
―確かに表面を見ると、外部VCから出資を集めるのも大変そうな事業ですよね。
そうですね。これまでの営業部やソーシャルメディア部で培った最低限の実績と信用があったからこそ、新しい事業に取り組めたのだと思います。自身が構築してきた信頼関係さえあれば、自己資本を投入したりVCからの出資を受けたりしなくても、企業の中で新規事業や社内起業に挑戦できるはずです。
まさにこれこそが社内起業のメリットと言えるのではないのでしょうか。
―すごくシンプルですが、おっしゃる通りですね。
精神的に励まし合える仲間が社内にいたのもありがたかったですね。もちろん親会社であるセプテーニ・ホールディングスの経理や人事、法務や広報の方々に加えて、豊富な経験をもっている方に役員参画してもらってサポートを受けられた点にも非常に感謝しています。
―一方で、デメリットはどのように考えていますか?
資金調達など大々的に社外に対して情報を発信出来る機会があまりないので、一般論でいうと、世間的な注目は集めにくいかもしれません。また就業規則などはグループ内で統一しなければならないため、事業活動に制限がかかる場面もあったと思います。
ただ、私にとってはメリットの方が非常に大きかったと思っています。
―下垣さんから見て「社内起業家」に向いている人の素養はどのようなものでしょうか?
ピュアに「事業を成長させる」という目標にしっかりとコミット出来る人ではないでしょうか。
社内起業をして新規事業を進めていくと、ある程度事業が成長した段階で、当然今後の事業の進め方という観点で、一度立ち止まるタイミングがあると思います。事業が順調に成長していくと、当然資金調達も出来る自信が出てきますし、もう一度、自分で立ち上げをするという道もあり得ると思います。自身の経済的なリターンだけを考えたら、その方が魅力的に映る場合もあるかもしれません。
しかし最終的には、自分が本当にやりたいことは何か?ということだと思うのですよね。私の場合は、そもそもの動機として、自分がものすごく有名になったり、お金持ちになったりしたいわけではありませんでした。それよりも今の事業をなるべく大きくすることがファーストプライオリティだと自分で納得していたので、現在も目の前の事業に地道に向き合っています。
社内起業家へのメッセージ
―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。
社内起業のメリットは先ほどもお話しましたが、社内起業という環境は、幸いにも短期的なリターンばかりが求められるわけではありません。そのため「自分が本当に挑戦したいこと」に長期目線で取り組めるのが良いことだと思います。仮に失敗したとしても、自己資本で挑戦するよりはダメージも少ないはずです。
まずは自身のビジネスアイデアを試す場として、手を上げてみるのも良いと思います。
長いスパンで考えながら、世の中を良くできる事業を一緒に作りましょう!
編集後記
セプテーニに入社後、営業部での勤務やソーシャルメディア部の立ち上げを経て、社長への直談判から事業立ち上げを進めていかれたgooddoの下垣さんに取材しました。
現場業務でしっかりと実績にコミットした信用をもとにして大きなチャレンジに取り組んだ点、自分自身の「本当にやりたい」という気持ちを曲げずに可能性を信じて挑み続けたからこそ事業の成功に繋がっている点など、社内で新規事業に取り組む皆さまにとって、勇気づけられるようなエピソードであったと思います。
今後も、信念を持って日本のソーシャルセクター全体により大きな影響を与えていことチャレンジをするgooddo社と下垣さんのご活躍に、引き続き注目していきたいと思います。
取材・編集:加藤 隼、永山 理子 執筆:土橋 美沙 撮影:川上 裕太郎 デザイン:村木 淳之介
gooddo株式会社
下垣 圭介
2006年に株式会社セプテーニに新卒入社後、インターネットマーケティング事業を担当。2010年からソーシャルメディア事業部の立ち上げに携わる中で「ソーシャルセクター」領域の可能性を実感して、2013年に新規事業として社会貢献プラットフォーム「gooddo(グッドゥ)」を設立。 2014年10月に同事業をグループ内ベンチャーとして法人化し、代表取締役に就任。