Interview

【NTTドコモ_dヘルスケア】大企業アセットを活かしたヘルスケア領域への挑戦

【NTTドコモ_dヘルスケア】大企業アセットを活かしたヘルスケア領域への挑戦

NTTドコモの強大な顧客基盤を活かして、ヘルスケア領域の社会課題を解決しようとする「dヘルスケア」事業。「dヘルスケア」アプリは2020年7月末に、600万DLを超え、「App Ape Award 2019 Best 100 Apps」にも選出されるなど、ユーザーからの高評価を獲得しながら、現在も順調なグロースを続けています。その堅調な事業立ち上げの背景には、愚直に試行錯誤/アウトプットを繰り返すプロジェクトリーダーの努力がありました。大企業のアセットを存分に活用しながら、巨大な社会課題に挑むストーリーについて取材しました。

5,300万人に届く仕事に関わりたかった

―まずは伊藤さんのこれまでのキャリアについてお聞きしたいと思います。NTTドコモに入社してから経験してきた業務について教えてください。

2008年に新卒入社して、営業として長野支店に配属になりました。いわゆる地域のドコモショップや量販店の販促施策やキャンペーンを一緒に考えたりCS向上を支援するのがメインの仕事でした。

当時は毎週250kmくらい車を運転して店舗を回っていましたね(笑)。

―もともとの志望は企画職だったんですよね?

サービスデザインの仕事をしたいと思って入社しました。私が入社した当時は「iモード機」を売っていた時代で、当時でもユーザーが5,300万人もいたんですよ。

さらに、端末もソフトウェアの部分も含めて企画の自由度が高かったので「5,300万人に伝わる仕事がやりたい」ということを志しての入社だったんです。

―営業の経験の中で今に活きていることはどのようなポイントですか?

営業の仕事から学んだことは沢山あります。例えば、ドコモショップは60代以上の年配の方の来店比率が高かったりするのですが、その世代の方達に操作のご説明をしたりする中で「UI/UXって本当に大切なんだ」という気づきがあったり。

今もそういった経験を元にしてサービス設計や企画を考えていますし、シニア向けの仕様も考えることが出来ていると思います。

―そこからサービス企画部門に異動されていますが、どのような経緯での異動だったんですか?

それはもうゴリ押ししましたよ(笑)。

当時は「企画がやりたい」という気持ちだけで、「サーバー」という概念すらもよく分かっていなかったくらいのレベルからスタートしたのですが、とにかくひたすらコンテンツ企画を出してキャッチアップしていきました。

―そんな状況の中で「dデリバリー」の立ち上げを推進されたんですよね?

そうですね。dデリバリーについては、サービスの企画段階からビジネスオーナーとして考えて、立ち上げに携わりました。

―当時入社して5年目くらいのタイミングでゼロからの立ち上げを経験されるのは珍しかったと思いますが、どのようにして機会を取りに行ったんですか?

もともとずっと「やりたい」って話をしながら、地道なアウトプットを愚直に出し続けた結果として、やっとアサインされたという経緯です。

―どのような体制で立ち上げを推進されたんですか?

最初は3人チームで立ち上げました。ビジネスサイドは全て私が見て、あとは技術サイドが1名、全体管理が1名いるくらい。

―少人数で、スタートアップ的な体制で進められたんですね。

初めはそうでしたね。サービス企画のみでなく、技術パートナーの採用なども含めて、全てをやっていたイメージです。

―その後は「ShopJapan」の事業にも関わっていますよね?

ShopJapanとして「ECにも注力する」というタイミングで、いわゆる「出前のEC」であるdデリバリーに携わっていた経緯もあってアサインされました。

当時、楽天の総合ランキングで4億商品中の1位を2か月連続で取れたりしまして。広告の打ち方や配送の仕方等、自由に試行錯誤しながら成果も出せて、非常に楽しい仕事でした。

この仕事の中では、モール運営の仕方や広告の使い方等、いわゆる売上の上げ方を熟知することが出来て、得られたものも非常に多かったと思います。

続けられる仕組みで「健康」をサポート

―ここから本題の「dヘルスケア」立ち上げ経緯をお聞きしたいと思います。

実は正直にお話すると、当時はヘルスケア領域にはあまり興味はなかったんです。ShopJapanから戻るのであれば、サービス企画/運営の仕事がやりたいと思っていまして。それでShopJapanのカウンターパートナーをやっていたのですが、隣の担当でdヘルスケアの立ち上げ検討をしているのを見ていたらやりたくなってきて、上司と交渉して関わっていったという経緯です(笑)。

―正式なアサインではなく、徐々にじわじわ関わりを強くしていったイメージですか?

はい。戦略的に関わりを強くしていきましたね。最初はweb販促の部分のみ関わるくらいだったのですが、検討チームの中にサービスの企画/開発経験のあるメンバーがあまりいなかったこともありまして、徐々にプロジェクトリーダーに近いポジションになっていきました。

―事業自体の深堀りに入ってく前に、改めて「dヘルスケア」がどのような事業かご紹介いただけますでしょうか?

『健康 × dポイントで気軽に始めて、自然と続く』という部分をコンセプトにしたサービスです。

認知獲得のためのコミュニケーションにおいても「毎日の歩数や体重記録に応じてdポイントに還元出来る」という点が統一した訴求ポイントになっています。メインのターゲット層は、40〜50代の方や、ひいては60代以降のシニア層の方々ですね。

―健康を気にしつつも、強い課題としては顕在化してきていないような方々がメインターゲットということですね

そうですね。そういった方々に対して、健康のミッションを分かりやすい形で提供しています。例えばですが、簡単な健康クイズに答えるとdポイントが抽選で当たるようなサービス等、ライトな仕組みで前向きに続けていただくことが必要だと思っています。

「ポイント」というアセットをフル活用

―もともとは、どのようなところから着想を得て考えた事業だったんですか?

当初から「歩数計 × ポイント」という部分に勝ち筋があると思っていたのですが、私たちが提供したかったソリューションとしては、歩数だけではやはり物足りなくて。コンテンツとしての情報提供等、ユーザーの不便/悩みを解消していきたいと考えていました。

それで最終的に、付加価値を数パターンまで絞り込んだ上で意思決定していきました。

―最終的にはどのように意思決定をしましたか?

最も大きな要素としては、ユーザー調査から吸い上げたユーザーの声をもとにして、チームで協議して決定しました。

そこからは、利用フローをPoCとして作成し、実際にユーザーに見せてみたりして磨き込みながら、実際のインターフェイスを考えたという進め方でした。

―比較的スムーズに立ち上げが進んだ印象ですが、実際のところはいかがでしたでしょうか?

あまり言えないですが、いろいろな事件はありました(笑)。

ただ、いわゆる健康系のサービスは、映画や、雑誌のように自前で核となるコンテンツを用意する必要がない分、お客様からデータをいただくことさえ出来れば、比較的立ち上がりやすいんですよね。

NTTドコモという看板によってお客様からの信頼を獲得しやすく、さらにdポイントというインセンティブを活用出来たことは非常に大きかったと思います。

―自社のアセットを上手く活用されながら立ち上げたのですね。

そうですね。社内的にはまだまだ小さいチームですので、ドコモとしての強みを最大限活かしたり、色々なチームの力を借りながら事業を進めていきたいと思っています。

NTTドコモは「安心/安全のブランド」というイメージで見られていたりしますが、加えて「健康」というイメージを付加したいと思っておりまして。個人的には、ドコモブランドと健康領域の相性は非常に良いのではないか、と考えています。

―dポイントとの連携は最初から見据えていたものなのですか?

アプリを構想する段階から考えていました。サービスの構想として「勝てる領域だ」という自信はあったものの、特に立ち上げ期に関しては、社内的に小さくて弱いチームだったので、勝つための手段を必死で考えた結論として、dポイントとの連携に行き着きました。

普通であれば、ユーザー獲得インセンティブのために大きな投資はしづらかったりするのですが、dポイント/dアカウント自体の大きな戦略方針に合致しているからこそ、攻めの投資が出来ていると思います。

―まさに大企業の社内新規事業ならではの戦略的な事業開発の進め方ですね。

もちろんその分責任は伴います。ユーザー調査の結果を踏まえて、新しい機能を盛り込んで、NPSやLTVなどのサービスのKPIを注意深くモニタリングして、といったようなPDCAを回す作業は、常に愚直に進めていく必要があります。

―今後のdヘルスケア事業としては、どんなチャレンジをしていきたいと思っていますか?

まず短期の話ですと、アプリサービスとしてもっと多くのユーザーに使っていただけるように、まだまだグロースを頑張っていきたいと思っています。個人的には、ドコモのユーザー基盤を考えると、MAUで1,000万レベルのサービスを目指すことも可能だと思うんです。

―具体的にはどのような施策を行なっていく想定ですか?

まずは、ポイントをフックとして試してもらって、習慣化してもらうことによって、本質的な価値である健康を実感出来る、というサイクルを回していくことですね。NPSも高い水準が保てているので、まだまだ出来ることがあると信じています。

純粋なグロースの観点で言うと、社内外の認知を高めていって、様々な場所で露出を増やしていくことも、より注力して取り組んでいきたいです。

―長期的にはどのような画を描いてらっしゃいますか?

ドコモの安心・安全・信頼というブランドを活用しながら、未病/予防領域でのサービス展開が現在の中心ですし、今後も拡充していくところですが、加えて、メディカル領域に染み出していくことは考えていきたいことの1つですね。

社内起業家としての働き方

―「社内起業家としての働き方」についてもお聞きしていきたいと思います。伊藤さんは自社のアセットも上手く活用して事業を立ち上げられている印象ですが、改めてどのような点が社内起業のメリットだと思いますか?

自社のアセットには非常に助けられています。弊社での分かりやすい例が、dポイントやd払い等です。私自身は全く営業していないのに、全国に多くの加盟店パートナーがいるという状態は大変ありがたいです。

―アセットを上手く活用するためには社内政治も必要だと思いますが、伊藤さんが考える社内政治攻略のポイントはありますか?

とにかく発信することですね。とにかくまずは「Give・Give・Give」です。

今でも、月次の主要KPIを、過去お世話になった先輩や後輩、熱い想いをもったグループにメールやSlackで送ったりしています。やはり皆さんの協力なしでは何も出来ないと思っているので。

あとは、普段から周囲に対して自分の事業の良さを刷り込んでいくことも重要だと思っているので、社内報やドコモ全体Slackチャンネルでの発信も力を入れて行なっています。

―一貫して自ら発信することによって、動きやすい環境を作ってこられたのですね。

アウトプットをすると、自分でも考えるし、周囲からフィードバックももらえるし、それによって自分にどんどん知識も定着していく効果もあると感じています。

―伊藤さんとしては、どのような人が企業内新規事業開発に向いていると思いますか?

「会社に対して媚びない」ということは大事です。「いつでも転職出来る」という内なる自信を持っているような人は強いと思います。そのくらいの覚悟や気構えを持って取り組むことで、事業の成功確度も上がってくると思います。

―会社にしがみつかずに、アグレッシブに事柄を進めていく姿勢ですね。

そうですね。日本の大企業は、基本的には雇用が守られるという意味で非常に恵まれていると思うんです。そんな状況の中で、大企業パワーをフル活用してチャレンジしないのはもったいないと思っています。

―伊藤さん個人としては、今後でどのようなキャリアビジョンを描いていますか?

今がちょうど35歳なのですが、今年の間には「自分はこの領域で生きていく」みたいなことは決めたいと思っています。そういう意味だと、ヘルスケア/メディカル領域は、社会課題も溢れているし、取り組む意義は大きいと思っているので、まずはこの領域で頑張りたいですね。

その上で、この領域で影響力を出すためには、ドコモのパワーがとても大切だと思っていまして。今の私としては、この会社の中で新しいチャレンジも含めて取り組んでいくことが社会課題の解決にも繋がるし、ドコモ自体のグロースにも繋がると考えて取り組んでいます。

―まだまだチャレンジしたいことが沢山あるんですね。

そうですね。実はこの4月から「ヘルスケア事業担当」から「ヘルスケア事業推進室」に格上げになったんです。「dヘルスケア」アプリを中心として顧客との接点も持っていこうという戦略で、私自身がCSも担当しているので、日々お客様から叱咤激励も頂戴していますが、今が社会人生活で1番ワクワクしていますね。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。

実践的な部分では「新規事業の立ち上げ期は、とにかくNPSをあげよう!」ということが大事だと思います。もちろん実際にご利用いただくお客様は当たり前ですが、「社内に対するNPS」も大事だと思っています。

大企業であるほど社内人材獲得も大変なので、「異動先として勧めてもらえる環境かどうか」も非常に重要だと思います。グロース/拡販については、社内外に対するNPSを高めた後で考えれば良いと思います。

―働き方のスタンス/マインド面でのアドバイスはありますか?

時代錯誤に映るかもしれませんが「圧倒的努力」が重要だと思っています。最近、橋下徹さんの『異端のすすめ』という本を読んだのですが、その中で「若い頃は売りがないから、とにかくスピードが命ですと言えるようにしよう」という一節がありました。

「スピードが命」というからには、それだけアウトプットを出さないといけないし、量をこなすしかないですよね。いきなり質は求められないから、まずはとにかく量です。

私自身もまだまだ失敗することもあります。でも、それもチャレンジしているからこその失敗だと思うので、「アウトプットを出すための努力は必要だ」と、自身にも言い聞かせて頑張っています。

編集後記

NTTドコモの強力なアセットをフル活用しながら、根深いヘルスケア領域の社会課題の解決のためにチャレンジを続ける伊藤さんに取材をしました。

新規事業立ち上げにおける実践知のみでなく、社内起業家としてのスタンス/マインド面での重要な点も熱く語ってくださり、学べる部分が多いインタビューであったかと思います。

非常に活力のある目で「今が社会人生活で1番ワクワクしている」と語る伊藤さんと、今後の「dヘルスケア」事業のチャレンジに、引き続き注目していきたいと思います。


取材・編集:加藤 隼 執筆:中野 雅允 撮影:宇都宮 竜司 デザイン:村木 淳之介

伊藤 慎介-image

株式会社NTTドコモ

伊藤 慎介

2008年に株式会社NTTドコモに新卒入社。長野支店の営業部門に配属になり、販売店向けエリアマネージャーや県内全域の販売施策設計業務に従事。 2011年にサービス企画部門に異動し「iコンシェル」のコンテンツ企画、「dデリバリー」の立ち上げを推進。 2014年よりグループ会社の㈱オークローンマーケティングへ出向し、「Shoop Japan」のEC売上最大化にコミットし、楽天総合ランキングで2か月連続1位の実績を残す。 2016年より現職に異動し、プロジェクトリーダーとして「dヘルスケア」事業の立ち上げ/運営を推進。