Interview

【NRIデジタル】縦横無尽に新規事業を推進するイノベーターの働き方

【NRIデジタル】縦横無尽に新規事業を推進するイノベーターの働き方

野村グループ内での新規事業開発制度運営、イノベーション推進子会社設立、DX推進等、縦横無尽に新規事業開発に携わってきたイノベーター林田氏の新規事業キャリアについて取材しました。エンジニアリングとビジネスの両視点を持ちながら独自の視点で語る新規事業論にも注目です。

イノベーション研修をきっかけに新規事業キャリアへ

―まずは林田さんのこれまでのご経験やキャリアについてお聞きしたいと思います。新卒入社してから経験してきた業務について教えてください。

2012年にNRIにテクニカルエンジニアという枠で入社しまして、オープンソースソリューション推進室という部署に配属されました。その部署では、オープンソースソフトウェア(OSS)を使ったSIや製品開発、OSS自体のサポートなどが中心の仕事でした。

―NRIの中でも少し珍しい配属だったんですよね?

もともとが社内の新規事業創出プログラムから生まれた小さい部署だったこともあり、新卒は1人配属されるかどうか、という部署でしたね。

その後に転機となったのが2015年でして、NRI主催のサンフランシスコで行われたイノベーション研修に参加させていただき、3ヶ月間みっちりイノベーションについて学ぶ機会を得ることが出来ました。

その研修から帰ってきて、2016年に野村ホールディングスの中で金融イノベーションを推進する部署が新設されまして、その部署の初期メンバーとして出向配属されました。

―どのような期待があって抜擢であったと思いますか?

イノベーション研修を受けてそれなりの知識があったことと、先進的なITに詳しい人間ということで抜擢されたと理解しています。野村グループへの出向自体は3年間だったんですけど、そこでもかなり濃い経験を積むことが出来たと思います。

―まずはどのような仕事から着手したんですか?

出向1年目では、野村グループ全体の中の社内ビジネスアイデアコンテストやアクセラレータープログラム等のイノベーションマネジメントシステムの設計・運営の業務をやっていました。

例えば社内ビジネスアイデアコンテストであれば、プロジェクトマネージャーとして500件以上の新規事業案を書類審査するなど、大きな裁量で仕事を任せてもらっていたと思います。

CTOとして新規事業開発基盤を立ち上げ

―出向1年目から非常に濃い経験をされていますね。2年目以降はどのような業務に関わったんですか?

野村ホールディングス100%子会社の株式会社N-Village立ち上げに関わりました。グループ内から創り出すのは難しい「破壊的イノベーションの創出」を目的とするR&D組織のような位置づけの子会社です。

その中で、僕の役割はCTOとしてIT面のルール設計に携わりました。どうしても野村グループの本体は大きな会社なので、ITのセキュリティルールが非常に強固なものになっているのですが、破壊的イノベーションを推進する上では、ある程度柔軟で自由なルール設計が必要になります。いかにセキュリティを担保しながら緩和して、事業開発のスピードアップを図るか、ということに注力して仕事をしていました。

―N-Villageの中では事業自体の立ち上げにも関わったんですよね?

そうですね。前提として、私含めて3人で始まった子会社だったので、事業開発をしようと思っても開発体制がなかったんです。まずはその開発体制を整備するところから始まり、事業の立ち上げで言うと僕自身がプロダクトオーナーとして推進した事業もあれば、面白い取り組みで言うと「客員起業家」を招致して推進した事業もありました。

―「客員起業家」ですか?

「外部の起業家に副業的に参画してもらって、N-Villageの開発体制を活用してプロジェクト推進をしてもらう」という取り組みです。その事業立ち上げのサポート、開発との橋渡しみたいなこともやっていました。

―非常にユニークな制度ですね。事業開発のプロセスはどのように管理されていたんですか?

ステージゲートのような方式で、社内での審査とフェーズ管理を行なっていました。そもそもニーズがなかったり、途中でピボット(軌道修正)しすぎて当初の目的からズレてしまったり、様々な理由でお蔵入りした事業も沢山ありましたが、グループ内では難しかったリーンな(無駄なく、小さく始めて大きく育てる)新規事業開発の知見を貯めることが出来たと思います。

―N-Villageから世の中に出た事業についても教えていただきたいです。

N-Village発のプロダクトが2つありまして、1つは僕自身がプロダクトオーナーをやった「MyRate」というプロダクトです。世の中のシェアリングエコノミーサービスにおける個人の信用情報を、他のいろんなサービスにも持ち出せるようにしよう、というコンセプトのプロダクトで、これはかなり初期に作ってリリースしたものですね。

もう1つが「ibet」という、ブロックチェーン上で金融商品のやり取りが出来る基盤を整理したプロダクトです。こちらはN-Village内の別の社員が立ち上げたものなのですが、現在は株式会社BOOSTRYという子会社に独立させて、継続して事業運営をしています。

―グループ内とN-Villageで働き方の感覚に違いはありましたか?

全然違いましたね。

特にNRIで働いていた時には「きっちり仕様を決めて固めてから作っていく」という開発モデルがデフォルトだったのですが、N-Villageにおける新規事業の開発は「自分でも最終ゴールが分からないものを自分で考えて決めて作っていって、ユーザーニーズを捉えながら修正していく」という違いですね。どこから作っていくかすら自分の中の決めで作る、みたいな(笑)。

―いわゆるリーンスタートアップ、アジャイル開発的な思想ですよね。

そうですね。イノベーション研修の3ヶ月間で学んだ中で理論上は分かっていたものの「本当に実践するとこんな感覚なんだな」っていうのはすごい驚きでした。

―開発においても意思決定の柔軟さとスピードが求められる中で、親会社に対する決裁・承認などはどのように行なっていたんですか?

N-Villageの意思決定の立て付け自体を、グループから分離独立させていたことが功を奏しまして、開発に関して逐一承認をもらわなくても良かったんですよ。自分たちの中だけである程度の判断が出来る仕組みになっていたので、新規事業開発においては非常に進めやすい開発体制が構築出来ていたと思います。

モノ作りが出来る強みをフル活用

―N-Villageで2年間働いた後、現在はどのような仕事をしているんですか?

2019年から、今度は顧客企業のDX支援をするNRIデジタルという子会社に出向しました。その中で、ビジネスデザイナーという肩書きで、プロトタイプ実装等も含めた顧客企業内の新規事業開発のご支援の仕事をメインに行なっています。

―これまでの経験が活かせているポイントはありますか?

新規事業の企画の話をしていると「こんな感じのビジネスできればいいよね」みたいなふわっとした議論で終始してしまうケースがあるじゃないですか。それを翌週までにUIまで落とし込んで持っていくみたいな、自分で手を動かしてスピード感を持って形にしていく部分は非常に役立っていると思います。

―どのような部分にやりがいを感じていますか?

ふわっとした状態から形にしていくモノ作りの過程がすごく面白いんですよ。

モノ作りをやれるスキルがあると、僕の中だけで妄想していた機能とかもちょこっと盛り込んだりすることが出来るわけですが、言葉では人に伝わりづらい妄想でも、UIに落とし込んで議論に乗せると、「これいいじゃん」ってことになったりするんです。そういう部分にはすごくやりがいを感じていますね。

―今の業務の中では、今後どのようなチャレンジをしていきたいですか?

現在関わらせていただいている、とあるBtoBtoCの事業があるのですが、それがちゃんと立ち上がれば、世の中に影響を与えられるようなものだと思っていまして。

ただ、立ち上げてグロースしていくためには、もちろんプロダクトだけじゃなくてマーケティング等も必須になってくるじゃないですか。これまで一通り0→1の新規事業プロセスには関わってきたと思っているのですが、いわゆる1→10以降の部分はやったことがないので、この部分にも関わることが出来そうなのはとてもチャレンジングで楽しみだと思っています。

社内起業家としての働き方

―社内起業家としての働き方についても深堀っていきたいと思います。これまで連鎖的に新規事業領域のキャリアが続いている印象ですが、林田さん本人としても希望して戦略的に獲得してきたキャリアだったんですか?

希望していたこともあるのですが、実は7年前頃から今でも続いている「NRIハッカソン」というイベントの立ち上げに参画したことがありまして。もともとは「エンジニアにスポットを当てながら、社外とも一緒に開発出来る場所」というコンセプトで立ち上げたものだったのですが、立ち上げた年から2年連続で、運営サイドやりながら最優秀賞を取ってしまいまして(笑)。

そのハッカソン運営の中で当時の本部長と直接話す機会を得ることが出来て、それがきっかけでキャリアの転機となるイノベーション研修に参加させていただくことが出来たんです。

ですので、自分でも希望しながら新規事業キャリアの道が拓けていったイメージで、ちょうど社内でも起業に近いノウハウを持った人材が求められる潮流もあって、研修参加以来は一貫して新規事業畑の仕事に関わらせてもらっていますね。

―これまで新規事業開発を支援する側としても沢山の新規事業立ち上げの現場に関わってきたと思いますが、どのような人が新規事業に向いていると思いますか?

これは明確で、「顧客となるお客様のところに足を運べる人」ですね。大きな会社の中で働いていると、本当のお客様であるエンドユーザーとの距離ってどうしても遠くなっちゃうんですよね。構造的にステークホルダーが多いので、なかなか一足飛びにエンドユーザーのところに行けず、そこの声が拾いづらいんです。加えて、ただ突っ走るだけでもダメで、ちゃんと上長や関係者を説得するテクニックとしたたかさも持っていないといけない。

ただし、それこそ何十回も何百回も顧客のところに足を運ばないと、絶対に筋の良い新規事業って出来ないと思っているので、そこを突破するマインドとスキルというのが一番大きいと思います。

―簡単なことのようで難しいですよね。これまでのご経験の中で、良い打開策はありましたか?

性格による部分も大きいですが、どこかで変わるポイントは必ずあって、やっぱり実際にお客様のところに足を運ぶようになったらちょっと変わることが多いんですよね。いわゆる「自分事になる」っていう瞬間は必ず来ると思っていまして、それをいかに早く掴むかが大事だと思います。

―これまで大企業の中から新規事業に取り組んできて、どのような点をメリットと感じていますか?

大きく分けて2つありまして、1つは学習面です。やはり大企業ってすごくきちんと品質管理・セキュリティ管理をやったりとか、そもそもの開発やプロジェクトマネジメント体制がしっかりしていて、それを一通り学べたのがすごく良くて。ガッチリやってた経験があると、押さえるべきポイントがすぐわかるようになるんです。品質水準の高さを学んだことで、要所を押さえた品質管理が出来るようになりました。

―もう1点はどのようなことでしょうか?

実際にビジネスを組み立てる上でのメリットですが、やっぱり大企業のアセットはものすごく強力です。一言でアセットと言っても沢山あるのですが、まずは第一に大企業の看板が持つ社会的信用力の大きさであったり、フィンテックビジネスを推進する上では、中央省庁との関係の強さだったり。

あとは、金融に関する知識やノウハウ・既存顧客基盤・資金面など、挙げればきりがないので、スタートアップとは異なる戦い方があると思います。

―一方でデメリットと思う部分はありますか?

その強力なアセットを活用する際には、もちろん社内手続きや調整事が必要になってくるんですよね。その結果として、どうしても意思決定が遅くなったりすることはありますね。

あとは、意思決定そのものについての話で、なるべく船頭は少ない方がいいんですよ。尖ったアイデアは尖っているからこそ良いのですけども、船頭が多いとその分だけいろんな意見に揉まれていって、最初は面白かったアイデアもどんどん面白くなくてありきたりなものになっていくという。

―社内調整プロセスの過程で、どうしても多くの人の目を通さなければいけないケースはありますよね。そのあたりの攻略法はありますか?

各ステークホルダーに合わせて、多少見せ方を変える必要があるケースがほとんどです。この時、ターゲット顧客のアンケート結果などのファクトを示しつつ説得するのが良いと思います。ステークホルダーからのアドバイスは参考にしながらも、プロダクト仕様の意思決定はプロダクトオーナーが行うべきです。

―社内起業のために重要な個人のマインドセットについてはどのように捉えていますか?

社内起業においては「会社が向いている方向性と自分が向いている方向性を合わせにいくこと」が一番重要だと思っています。いわゆるゴールデンサークルを合わせにいけるかどうかがポイントで、自分側のサークルを合わせていきながら、同時に会社側のサークルを自分の方に寄せる活動もすべきです。

―林田さん自身の新規事業へのモチベーションはどのような部分から生まれてきているんですか?

これは人格的な部分なんですけど、幼い頃から冒険が好きなんですよ。リスクを取ったり、誰もやったことがないことにチャレンジしたりだとか。僕にとって新規事業という仕事はワクワクする冒険の延長線上のようなものだと考えています。

何かを得られるから頑張るというよりは、現在進行形で学びであったり楽しさを積み上げていっている感覚があります。「新規事業でこんな未来目指してやるんだ」と明確に描いているわけではなく、仮に事業の方向性を変えざるを得ない場合があったとしても「それも学びだし楽しいよね」と。

―外的要素ではなく、自分の内側にモチベーションを置けるのは強いですね。

そうですね。「誰かから褒められたい」とかのモチベーションだと、特に不確実性の高い新規事業においては辛いんじゃないかなと。

ただ一方で、個人の努力の範囲では限界があります。新規事業を推進したい企業は、文化醸成・ガバナンス整備・Exit設計等、仕組みとしての全体設計に取り組んでいく必要があると思いますが、特に大事なポイントとして、仮に失敗したとしても、チャレンジ自体を評価する評価体系は整備しなければいけないと思います。それがないと、「新規事業に関わった人って評価されてない人ばっかりだよね」みたいになっちゃって、負のサイクルが回っていってしまう。

―とても重要ですが評価の仕方は難しいですよね。林田さんとしてはどうすれば適切に評価出来ると思いますか?

「いかに効率的に仮説を検証したか」を見るべきだと考えています。筋の良い仮説を絞ってピンポイントでスピーディーにそのサイクルを回せたかっていう観点ですね。

―机上の綺麗な事業計画書は評価しないと。

新規事業開発においては計画だけが上手くてもダメだと思います。一定の期間・予算の中で、どれだけの仮説を明確にしたか、然るべきピボット(軌道修正)を繰り返したか、その量で事業開発力を測って評価することが大事だと思いますね。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。

前提としては、メリット・デメリットでも挙げたように、社内起業ならではのもどかしさや大変なことも沢山あるんですけど、それは、強力なアセットを使わせてもらう税金と考えるべきですね。社内起業の場合は、個人としても金銭・社会信用面での安定した基盤を保ちながらチャレンジが出来るという大きなメリットがあります。それを享受する対価として、それなりの税金は必要という捉え方をすると、精神的には幾分楽になると思います。

一方で、何も求めちゃダメかと言うとそんなことはなくて、会社側の方向性を自分側に寄せてくるような働きかけはやるべきです。もっと大きな視点で言うと、個人レベルではなく、会社レベルで新規事業の再現性を高める仕組みを導入させにいくような働きかけをしていくべきですし、会社側もそれを汲まなきゃいけないと思います。

その上で、自分一人で考えていても大抵上手くいかないことが多いので、なるべく沢山の支援者を巻き込んだ方が良いと思います。自分の所属部署だけではなくて、隣の部署だったり、全く別本部の本部長だったりとか、それこそ機会があれば社長に直談判してもいいと思うんですけど。

大企業は母数が多いので、自分の構想を話した時に味方になってくれる人は必ず見つかります。そういう仲間を増やせると心強いですし、いつかは巡り巡って、自分の力になってもらえるシーンが出てくると思っています。

編集後記

NRIデジタルをベースに、野村グループ内で会社の垣根を超えながら、縦横無尽に新規事業開発を推進する林田さんに取材をしました。

新規事業開発における重要なこと、社内起業に対しての個人・会社視点での考え方等、支援側としても実践者側としても数多くの新規事業に対して携わってきたからこその言葉は、非常に参考になる部分が多い内容であったかと思います。

冒険好きでチャレンジを辞めない、林田さんの活躍に今後も期待したいと思います。


取材・編集・執筆:加藤 隼 撮影:土井 雄介 デザイン:村木 淳之介

林田 敦-image

NRIデジタル株式会社

林田 敦

2012年に株式会社野村総合研究所(以下、NRI)に入社し、SE/PMとして活動。 2015年にサンフランシスコでのbtrax社研修受講をきっかけに、2016年より野村ホールディングス株式会社へ出向し、グループ全体のイノベーションマネジメント業務に携わる。 2017年からイノベーション戦略子会社である株式会社N-Villageに出向し、同社CTOとして新規事業のPO/PMを担当。 2019年からNRIデジタル株式会社に出向し、企業に対する新規事業提案や社内新規事業のアドバイザリー業務に従事。