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【パナソニック】新規事業で大企業カルチャーを変革する
パナソニック株式会社の中で、営業からキャリアをスタートさせて、新規事業領域のキャリアに飛び込んだ挑戦の物語。グループ内からの新規事業創出を加速させることを目的としたプログラム「GCカタパルト」の独自の特徴にも触れながら、新規事業を起点として全社の社内変革を目指す、濱本氏のチャレンジについてインタビューをしました。
▼目次
今後のキャリアに悩み「社内転職」を選択
―まずは濱本さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。入社のきっかけからパナソニックに入社後の経験してきた業務について教えてください。
2011年にパナソニックに新卒入社しましたが、ちょうどリーマンショックが起きて、新卒が冷え込んでいた時期でした。そういった状況もあって、企業説明会ではほとんどの企業が「安心して働ける場所です」みたいに守りに徹していました。
そんな中でパナソニックだけは「2018年にグローバルナンバーワンを目指します」と強くメッセージを打ち出してたのが印象的で。どんな状況でも自分たちで新しいことを生み出しながら世界一を目指すような会社で働きたいな、と思ったのと、親戚がパナソニックショップの経営をやっていて、昔から「産業を創るパナソニック」に身近に触れていたこともあって、最終的にパナソニックを選びましたね。
―入社当初から「何かを生み出す仕事をしたい」という気持ちはあったんですね。
もともと大学では理系だったこともあって、将来的にはバックグラウンドを活かした仕事をやりたいという気持ちがありましたね。
ただ、入社して最初に配属されたのは営業の仕事で、新卒から4年間は溶接機・溶接ロボットの営業をやっていました。お客様は工場や造船所や鉄工所など、いわゆるBtoBのルート営業ですね。
―当時印象に残っているエピソードはありますか?
鉄工所の現場に営業に行ったら機械が壊れていて、いきなり現場責任者の人に詰められることが何度かありました。 (笑)。
他にも、工場のラインが止まってしまって、技術者の方々にも手伝ってもらいながら、週末対応したり(笑)。いわゆる「どぶ板営業」のような時代が4年くらい続いて、正直「この仕事は合ってないかも」と考えることもありました。
―そんな中でなぜ社内に留まったのですか?
パナソニックの社内異動制度を知ったからです。そこで車の音響関係の仕事がポストとして空いていることを知り、手を挙げて異動しました。
―そこではどのような業務に携わっていたのですか?
オートモーティブ営業本部という部署で、車の音響システムの営業担当をしていました。私自身が音楽自体も大好きだったので本当に楽しかったです。私は音響システムだけではなく、香りや空間等、いわゆる人間のセンシング部分も含めた提案を全部丸ごとやる経験もありました。
この仕事は結局3年間やることになったのですが、本当に毎日が刺激的でした。
新規事業領域進出のきっかけは「横串」の活動
―その流れだとそのままのルートで進みそうなところですが、どのような経緯で新規事業に興味を持ち始めたんですか?
パナソニック社内の有志団体である「One Panasonic」での活動で、社内の様々な人と関わって話す経験をしたことで興味を持ち始めました。One Panasonicのイベントを通じて、パナソニック全体の魅力や課題を知ることが出来ました。
―いわゆる「縦」の交流しかなかった中で、One Panasonicによって視野が広がったんですね。
そうですね。経済産業省主催の「始動」という次世代イノベーター育成プログラムに参加していたこともあって新規事業に興味は持っていたのですが、そんなタイミングで、GCカタパルトの当時のプランニングリードをやっていた方に相談する機会を得る事ができ、2018年の1月から新規事業の領域に飛び込むことになりました。
―これまでの営業の仕事とは全く異なる仕事で、戸惑いはありませんでしたか?
仕事内容も考え方も、180度変わりました。GCカタパルトに入って直後に希望を出してシリコンバレーに1ヶ月出張させてもらったりして、少しずつ新規事業開発に関わる知識やノウハウをキャッチアップしていきました。
独自の仕組み×熱量の伝播で事業創造を加速させる
―GCカタパルトについても詳しくお話を聞きたいと思います。組織体制と制度の特徴について簡単にご紹介をいただけますでしょうか?
2016年に開始したプログラムで、我々は「企業内アクセラレーター」と位置づけているのですが、いわゆる社内起業家を育てて、事業化を目指すプログラムとなっています。
基本的な考え方はステージゲート制になっていて、まずはリーンキャンバスをもとにした1次審査があって、通過後はプロトタイピングフェーズがあって、その結果をもとにした最終審査があります。最終審査通過後はPOCを回して、その結果次第で事業化にも進める、というフローになっています。プロトタイピングを作るフェーズでは北米の大規模展示会「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」にも出展出来るような独自の仕組みもあります。
―チャレンジのモチベーションになりそうですね。
そうなんです。やはり現業の中では、最新の情報やテクノロジー等の「外の機会」に触れる時間は少ないので、「SXSWを通じて世界レベルのマインドセットに変える」というきっかけを作る目的も込めて、プログラムの中に組み込んでいます。
―非常に贅沢なプログラムだと思いますが、これまでどの程度の案件があがってきたんですか?
累計では数百レベルの事業アイデアを審査してきました。現時点でPOC案件が数十くらい走っていて、うち2件が事業化したという形です。
―事務局として「どうやって応募のモチベーションを作って巻き込んでいくか」という施策も大切だと思いますが、具体的にどのようなことをやっていましたか?
GCカタパルトでの活動ではもちろんですが、新規事業有志活動の「BOOST」という活動の中で、社内イベントを企画して原体験を作ってもらうような社内啓蒙の活動を行っています。 また、ランチの時間を使って新規事業に興味ありそうな人に話を聞きに行ったりしてたら、どんどん社内の繋がりが広がってきて、横のネットワークを強くすることが出来たと思っています。
―かなり地道な草の根活動として啓蒙してきたんですね。
そうですね。大勢を集めて話すよりも、一人ひとりをしっかり口説いた方が効果的だし持続性も高いと思います。口説いた一人の熱量が熱くなって、また別の人に繋いでくれる。そう言った波及効果があるということを実感しています。
―活動の成果は実績にも跳ね返ってきましたか?
もちろん他の要素もあるのですが、前年比で応募件数を2倍弱に増やすことが出来て、手応えを感じました。
―他に特徴的なポイントはありますか?
もともとはこのプログラムから生まれた新規事業を事業部側に返すことを出口にしていたのですが、それだけではなく、カーブアウトでの事業化を目指すことも出来るスキームがあります。
―BeeEdge(Scrum Ventures、INCJ、パナソニックの共同出資の投資会社)ですね。
そうです。パナソニックブランドを付けずに「外」で事業化が出来るというのが大きな特徴です。
―事業の良し悪しはどのような観点で見極めることが多いですか?
基本的には起案者の「Will」の強さをとても大事にします。
あとは、顧客の心理的なペインと、社会構造上のペインという2つを明確に捉えられているか、というのも大事な視点ですね。ビジネスモデルと考えていく上で、この両方のペインが見えていないと、良いビジネスモデル・マネタイズポイントが見えてこなかったりします。
―ビジネス観点もそうですが、起案者自身がどのようなWillを持っているかも重視されるんですね。
Willはとても大事です。新規事業の検討を進めていくと、挫折やチームの崩壊等、絶対何かが起こるんですよね。そういう時の拠り所になるのは、その人たちのWillだと思います。
「そもそも何をしたかったんだっけ?」を突き詰めていくと、もう一度チームとして再起をして前に進んだり出来ます。逆にそれが出来ないチームは、険しい事業開発の道のりを乗り越えられないケースが多いです。
―GCカタパルトの中でも様々な案件を見てこられたかと思いますが、その中でも特に濱本さん印象に残っているプロジェクトはありますか?
現在プロトタイピングをしている事業で「後ろ姿が見れる鏡」というアイデアがありました。その起案者のWillは圧倒的に強くて、市場の可能性も「絶対にある」とブレずに言い続けるわけですよ。
そして、とにかくお客さんのところに足を運んで、色々なエビデンスを取ってきて、いつの間にか美容室と契約結びそうになっていたりと、もう巻き込み方がものすごい。審査の際には、インタビュー動画でお客さんの生の声を届けて通過していました。
机上で考えるよりも、顧客のところにどんどん行って、そのたびに適切にピボットしながら、事業も進化していく姿を見ていて、私自身も非常に勉強になりました。「上司に聞くのではなく、顧客に聞くことが重要」ということを改めて感じたプロジェクトでした。
「大企業病」の処方箋を開発したい
―現在はくらしアップデート推進本部(旧 ビジネスイノベーション本部)に異動されていますが、次のステップに進んだ理由と、今後どういった挑戦をしていかれたいのか教えていただけますでしょうか?
GCカタパルトからビジネスイノベーション本部に移った理由は明確にあって、それまではカンパニー軸で新規事業に携わっていましたが、全カンパニーに対して影響を及ぼすことが出来る本社で新規事業に携わってみたかった。特に「プラットフォームビジネスの新規事業をパナソニック本社でやる」というのが新しいチャレンジですね。そういったプラットフォームビジネスをやろうと思うと、本社で進められる部門に身を置く必要があると考え、手を挙げました。
―GCカタパルトの経験はどのように活用出来ていますか?
とても活きていると思います。GCカタパルトにいて良かったと思うのが、マインドセットの部分で「Unlearn & Hack」という行動指針があるんです。
私は7年間営業マンをやってきたので、どうしても営業視点になりがちだったのですが、それを一度「Unlearn」して、事業開発の目線で見たり、デザイナー・技術者的な目線で見たり。良い意味で常にそのような視点の切り替えをする癖がついたと思います。
あとは「Hack」に関しても、外部のカンファレンスを装置として活用しながら「社内と外部を交わらせて、社内のマインドセットを変えていく」ということを実践しています。
―「社内のマインドセット変革」は一つの取り組みたいテーマですか?
そうですね。GCカタパルトにもくらしアップデート推進本部にも言えることですが、今後は「出島」だけじゃなくて、「出島かで育んだものを、どうやって本体に取り込んで、全体を変革していくか」みたいなところがポイントだと思っています。
個人的に、このテーマに取り組むことは大企業病の処方箋となりうると思っていますので、自分自身も動きながら、周りも巻き込んで波及させていきたいと思います。
―くらしアップデート推進本部で、事業としてチャレンジしていきたいことも教えてください。
くらしアップデート推進本部では「大企業病の処方箋を作る」という手法を開発したいです。
大企業においては、既存の巨大事業のトランスフォーメーションをすることが、その会社を生まれ変わらせるポイントだと思っていて。それが出島起点で生まれることがあるかもしれないですが、本質的にはやっぱり社内からその流れを起こしていくことを目指したいと思っています。
社内起業家としての働き方
―濱本さんから見て「社内起業家に向いている人」の素養はどのようなものだと思っていますか?
1つ目は「素直さ」だと思います。事業開発の過程ではどうしてもピボットが必要となります。その時に、柔軟に対応が出来る素直さがないと前に進むことは難しいと思います。
2つ目は、相反するようなことではあるのですが、「折れない」ということも大切です。本当に大事にしたい部分、しなければいけない部分に関しては、折れずに走る。
これまで、いろいろな方と一緒に伴走をしてくる中で、この2点のバランスは重要だと感じています。
―濱本さんは自分でも燃えられて、周りも巻き込んで火を付けている印象なのですが、そのモチベーションはどこから来ているのでしょうか?
このインタビューの冒頭で話したパナソニックショップを経営している親戚から、安岡正篤さんの「運命を創る」「知名と立命」っていう2冊の本を薦められまして。今風に言うと「OSを変える」というテーマを取り扱っている作品なのですが、そこにすごく惹かれるものがあって。自分自身もそうなのですが、特に「人のOSを変えること」に興味があるんだと思います。
社内起業家へのメッセージ
―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。
「ぜひ徒党を組みましょう!」とお伝えしたいです。せっかくやる気になったとしても、1人だけでやってると絶対に熱量が冷めてしまうじゃないですか。「社内起業家・事業開発人材のコミュニティを作る」みたいなイメージだと思うんですけど、これはいろんな会社で新規事業を加速する上で必須の条件だなと思っていて。私たちも有志で社内コミュニティを運営していますが、その場所はこのような役割を果たしていると思っています。心理的安全性のあるコミュニティを多く持っているほど、次の1歩も踏み出しやすいと思うので。
そういった燃えるチャレンジが出来るかもしれない人と「諦める前に会いたい」って思うんです。共感したり、一緒に走れる仲間を見つけていくことはとても大切だと思いますので、今後もそういった方々にお会いしたいと思います。
社外活動にはなりますが、私が所属する大企業の若手有志社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」にて、今年度から社内起業家を含む大企業挑戦者向けプログラム「CHANGE」を始動します。より大企業挑戦者同志が刺激しあい、イノベーションを加速する枠組みを作っていこうと動いています。
編集後記
国内有数の電機メーカーであるパナソニックにおいて、営業畑から新規事業領域にチャレンジした濱本さんにインタビューをしました。
インタビューの中で語ってくれた「人は変われる」という言葉は、自身のこれまでのキャリアを体現しているような、強い確信の込もった言葉であったように思います。
インベーションが渇望される重厚長大な大企業の中で、新規事業による社内の変革を目指して挑戦を続ける濱本さんのチャレンジに、引き続き注目していきたいと思います。
取材・編集・構成:加藤 隼・保 美和子 撮影:川上 裕太郎 デザイン:古川 央士
パナソニック株式会社
濱本 隆太
2011年にパナソニック株式会社に新卒入社し、溶接事業部配属。埼玉、東京、神奈川など、関東圏の設備営業、カーメーカー向け車載システム営業を経験。 その後、パナソニックグループ内の新規事業創出を加速させるプログラムである「Game Changer Catapult (以下、GCカタパルト)」に参画し、ビジネスデザイン担当として活動開始。 2018年1月よりビジネスイノベーション本部のHomeXプロジェクトに参画。 2020年4月よりくらしアップデート推進本部にてHomeXプロジェクトの事業開発担当に就任。