【三昭紙業】伝統的地方企業の営業マンが挑む新規事業開発

〈プロフィール〉
(画像左)
三昭紙業株式会社 福留 庸介 氏

(画像右)
三昭紙業株式会社 邑田 大悟 氏

目次

導入

高知県の伝統的な不織布製品メーカーである三昭紙業株式会社にとって新領域展開となるキャンプ専用キッチンペーパー「CAMP KITCHEN CLOTH」立ち上げの物語。

同社営業マンの2人が、高知県主体の「新規事業育成支援プログラム(*株式会社アルファドライブが運営受託)」に参加したことをきっかけに、顧客起点のアプローチで事業開発を推し進めていったプロセスを取材しました。

営業主体で商品企画開発にも携わる

―まずはお二人のキャリアについてお聞きしたいと思います。三昭紙業社に入社してから経験してきた業務について教えてください。
(福留) 入社してから8年ほどになりますが、ずっと営業部に所属しています。
三昭紙業はいわゆる製造業なのですが、大きく分けて3つの部門があります。まず1つ目はお客様のブランドの商品を弊社が製造していく「OEM部門」、2つ目が弊社がメーカーとして商品を製造し販売してい「ナショナルブランド部門」、そして3つ目が小売事業者様専用の商品を製造している「プライベートブランド部」です。
この中でもナショナルブランド部門で5年、OEM部門で3年ほど営業としての業務をしており、今は東京に常駐しながら、コスメ関係の化粧品メーカーの製品に携わっています。

―業務の性質は異なるものの、ずっと営業のキャリアを積んでこられたということですね。邑田さんについても教えてください。
(邑田) 私は入社6年目になります。入社後は、まず始めに製造部に配属になりまして、製造の現場で2年間、主に化粧品関係のお客様のラインで商品の製造・梱包などをやってきました。
その後に営業部に配属になり、関西を中心とした西日本エリアのナショナルブランド部門で営業活動を行いつつ、OEM商品にも携わっています
弊社のナショナルブランド商品の営業は、ただ製品を売るだけではなくて、商品企画や設計から関わります。「企画・設計から関わった商品を自分の手で販売できる」という、とてもやりがいのある仕事だと感じています。

―お二人ともに営業キャリアが長かったと思いますが、今回の新商品開発に関わり始めた経緯をお聞きかせください。もともと新規事業・新商品開発に関わりたいという思いは持ってらっしゃったんですか?
(福留) 私と邑田は自社商品の販売に長く携わっていますので、今回の新規事業に関しても、基本的には本業の製造業からブレてはいない領域でして。二人で今はない新しいマーケットに向けて商品を作っていきたいという話はしていました。
もともと弊社は大手企業のように部署縦割りという形ではなく、自社商品の開発についても営業が主導で計画して、各関係部署と連動しながら商品作りをしているという体制であったこともありまして。

―現場に最も近い営業がお客様からの声を拾って開発に反映していくという体制ですね。今回の新商品開発の直接的なきっかけはどういった経緯から始まったのでしょうか?
(福留) 高知県が主体となって開催している「新規事業育成支援プログラム」に2019年8月から参加したことがきっかけです。高知県内の企業10数社が参加して、勉強会と並行して事業開発をしていく、というプログラムです。

これまでに経験してこられた事業開発と、本プログラムの事業開発プロセスでは、どのような違いがありましたか?
(邑田) 新商品開発は何度か経験していますが、これまでは「まず製品を作ってお客様に持っていく」というやり方でした。しかし今回のプログラムでは「まずお客様の声を徹底的に拾うことから始める」という進め方で、そこが1番違う部分だったと思います。
まずは「お客様が何に困っているのか?」という課題を見つけた上で、「そこを解決できるような商品を作っていく」という、これまでとは真逆のアプローチでの商品開発となりました。

(福留) 私も同じ意見です。講義も受けた中で特に印象的だったのが「顧客に対して仮説を持って行って修正を繰り返す、その繰り返しだけでいい」というものがありました。それがもう目から鱗で、大変刺激的な体験でした。

顧客・課題起点での新商品開発プロセス

―今回の新商品についても詳しく触れていきたいと思いますが、まずは今回の新商品についてのご紹介をお願いします。
(邑田) 新たな分野への挑戦ということで、キャンプ専用キッチンペーパー「CAMP KITCHEN CLOTH」という商品の企画開発を行いました。このシートは食材の鮮度保持が出来て、直接料理に使っても安心安全で、さらに燃やしても有毒なガスが出ないという特徴があり、特にキャンプというシーンで役立つ商品となっています。

―キャンプ専用キッチンペーパー、今までになかった商品ですね。どのような起点で着想を得たのでしょうか?
(邑田) まずは自社の既存商品の特徴を棚卸ししていく中で「天然由来原料の繊維のみを使っている」「水に濡らしても破れにくい」「環境に優しい」といった特徴を改めて認識することが出来ました。
その価値を最も活かせるシーンを考えたときに「キャンプ」という1つの仮説が浮かび上がりました。

(福留) キャンプは市場としても非常に伸びていることにも注目しました。弊社の本社がある土佐市の近くにもスノーピークさんの運営するキャンプ場がありまして、非常に大きな賑わいを見せています。
キャンプでは料理をする機会も多くて「拭く」という作業が多いんです。そのシーンに着目して、「何か新しいものができないか」と考えたのがきっかけです。

―スノーピークさんを巻き込んで開発していった商品とのことですが、どのようなプロセスで巻き込んでいったんですか?
(邑田) 様々な業界関係者にヒアリングを重ねる中で辿り着いたのですが、最初の段階から非常に好感触を持っていただきました。「スノーピーク おち仁淀川」の店長を務める佐々木さんに直接連絡を取り、キャンプ場でのトライアル利用の打診をして、快く受け入れていただきました。
そこから我々二人と佐々木店長で、実際にBBQをしたり、キャンパーの皆さんにも使っていただいたりしながら、商品やデザインの方向性を決めていって、商品化に至りました。

(福留) スノーピークさんの協力を得ることが出来てからは非常にスムーズに進みました。

―ここまでの話の中では、非常にスムーズに進んだ印象ですが、逆に苦労したエピソードがあれば教えていただきたいです。
(福留) 「キャンプ専用キッチンペーパー」という発想が生まれてからはスムーズでしたが、その発想に辿り着くまでの期間はかなり苦労しました。
ターゲットとする顧客が全く定まらず、そこの意思決定も何度も何度もぶれてしまって。「キャンプ場の利用者」という顧客決定に行き着くまでがとにかく難航しました。

―ブレない顧客を見つけるためにどのようなプロセスで進めていったんですか?
(福留) そのフェーズで、まさしく「顧客に対して仮説を持って行って、その繰り返しをしていく」という話が参考になりました。実際に想定するお客様や社内関係者、自分たちの周囲を含めて、ひたすらヒアリングを繰り返していきました。とにかくヒアリングを重ねて、得られた様々な意見から、共通項を出していきながら考えていきました。

―とにかく現場でのヒアリングから情報を集めて考えることを繰り返したイメージですね。実際に商品のサンプルを作ってみて、世間や皆さまからの反響はどのような状態ですか?
(福留) 2020年3月中に発売予定ですが、一部のお客様にサンプルをお持ちして感想などを伺っています。やはりキャンプ専用キッチンペーパーという商品が今までなかったこともあり、非常に好感触を得ています。

―キャンプ市場の伸びと相まって期待が集まりますね。今後の拡大戦略としてはどのような構想を練ってらっしゃいますか?
(邑田) 今回の商品はスノーピークさんにご協力をいただきながら商品開発しましたので、まずはスノーピークさんが運営する全国のキャンプ場で扱っていただくことを目標にしていて、この商品をスノーピークブランドで展開したいなという気持ちもあります。
また、他のアウトドアメーカーさんにも幅広くご提案をしながら、別のアウトドアブランドでの展開も模索していきたいです。
さらに、弊社では化粧品やウェットティッシュ、虫除けシート等の商品も作っているので、それらの商品群でもアウトドア専用のものを作っていきたいですね。

―お二人としては、今後も商品企画や拡販にコミットされていくという働き方になるんでしょうか?
(福留) 私は基本的に東京での営業になりますが、営業部門内でも協同しながら動いていきます。

(邑田) 新しい分野の商品ということもあって営業部も乗り気になってくれていて。とても嬉しいことに、どんどん提案したいという前向きな意見を沢山もらっています。

―今回の取り組みは、御社の中でも斬新な取り組みですよね。この取り組み自体、社内からはどんな風に見られているんですか?
(福留) 2019年末にあった全社会議で、弊社従業員に向けても「こういう商品をつくりました!」という発表の場をいただきまして。従業員の皆さんもそうですが、経営層からも期待をしてもらっていると感じています。
ただ、事業としては今がスタート地点だと思うので、ここで埋もれてしなわないように、しっかりブランドを固めていきたいと思っています。

社内起業家としての働き方

―社内で新規事業に取り組むという働き方についてもお聞きしていきたいと思います。まず今回の「新規事業育成支援プログラム」に参加されたのはお二人の意思だったんですか?
(福留) 正直にお話しすると、最初は二人とも自分の意思ではなく、社内で選抜されての参加でした(笑)。
営業をやりながらも商品企画開発にも携わっていたので、そこも含めて選抜していただいたのかな、と思っています。

―プログラム期間中、これまでの働き方とは異なる思考と活動をされた数ヶ月であったかと思いますが、既存の業務と比べてどのような点が大変でしたか?
(福留) これまでの商品開発とは全く逆のアプローチだった部分が大変苦労しました今までは、例えばOEMであれば、お客様からレシピをいただいて、それをもとにどう作っていくかを考えれば良かったり。自社の商品開発でも、これまでの経験をベースにして自分たちが作りたいものを考えて作っていくことばかりで、「顧客起点で考える」というプロセスに慣れていなかったんです。

(邑田) プログラムのキックオフの講義で「顧客に仮説を300回持っていくことを繰り返しせば、誰にでも新規事業は出来る!』という話を聞いて、正直「とんでもないところに来てしまったな」と思いました(笑)。
「そんな時間もないし」とか言い訳ばかり浮かびましたし、二人で会社に戻ってから「もう無理です!300回もやってたら今の仕事に支障をきたします!」って話もしたり(笑)。

―そこで行動を止めずに、しっかりと顧客に向き合って検証を繰り返していったのが素晴らしいなと思います。
(邑田) やるしかなかったですからね(笑)。

(福留) 「顧客に対しての仮説検証を繰り返しいく」という手法は、逆にシンプルで良かったと思います。会社に対しての相談や社内会議もいらない。完全に顧客に対してのアプローチに集中するだけで良い、という考え方ですので、動きやすかったですね。

―実際にそういったプロセスを経験してみて、価値観やスタンス、マインド面での変化はありましたか?
(福留) よりお客様ベースで物事を考えるようになりました。これまでは自社の状況や設備など、自社主導の考えでモノを作る思考でした。すでに市場にある商品をベースに考えたり、そこに足し算をしたりという考え方ですね。
しかし、新しいモノを作るには、本当お客様が困っている課題に対して、自分たちで仮説を立てて、それの修正を繰り返していくしかない。今回の商品を通じて、そうじゃないと新しいモノは生まれないんだな、ということを実感出来ました。

―お話をお聞きする中で、お二人はマインド的に新規事業開発に向いてらっしゃると思っているのですが、推進していく上でのポイントと思うことがあれば教えていただきたいです。
(福留) 今回のプログラムでは他企業さんも一緒に参加したのですが、そういった方々と仲良くなれて、相談したり励まし合ったりしながら取り組めたことが1番のモチベーションに繋がりました。プログラム終了時には「寂しいな」とすら思いましたね。

(邑田) 私はお客様から色々な意見をいただけることが嬉しくて、そこがモチベーションになりました。本業の商談後に雑談がてらヒアリングをしていたつもりが、むしろ商談よりも長くなってしまうこともあって(笑)。
皆さん本当に意見を出してくれるんですよ。「こういうのあったらいいね」みたいな話で盛り上がって、すごく楽しみながら進めることが出来たと思います。

―行動を続けていればヒントを与えてくれたり、助けてくれる人が現れるんですね。
(福留) 我々が営業だったからこそやりやすかったと思います。ずっと会社の中で考えていたら、たぶんこんなに楽しみながらは進められなかった。社外に出て活動することでいろんな人に出会えて、自分の事業についてディスカッションしていく楽しさもあり、それが大きな原動力になったと思います。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。
(福留) 「楽しみながらやっていくこと」が大切だと思います。もちろん苦しいこともありますが、1人で閉じこもらずに外に出ていろんな人と話をして、前向きな気持ちで取り組んでいくことが大切だと思います。
新規事業開発における「答え」は会社の中にはないんですよね。今回の事業開発を通して、「答えは外にあるんだ」ということを改めて実感しました。

(邑田) 私たちもそうだったのですが、新規事業開発に携わると、必ずどこかでつまづくことがあると思います。つまづいたら、そこで止まらずに、顧客のところに行って話を聞く。自分で考えるではなくて、顧客のところに行くことで何かしらの答えが見つかることが多いので、それを繰り返すことで必ず乗り越えられると思います。
私たちもそのようなスタンスで頑張って、なんとか事業を形にすることができました。自分で苦労して考えて作った事業が形になると、またモチベーションも上がりますので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

編集後記

本メディアで初めて、伝統的な地方企業発の新規事業にスポットを当てた企画でした。
(取材もリモート実施でご協力をいただきました)

お二人の話からも、たびたび「とにかく顧客に対して仮説をぶつけに行く」「新規事業開発における答えは社外にある」といったキーワードが飛び出し、新規事業開発における「顧客起点でのアプローチ」の普遍性を再認識できた取材であったと思います。

同社の歴史の中で積み上げてきた技術的なアセットを活かしつつ、顧客の声から新領域に踏み込んだ新規事業として、今後の「CAMP KITCHEN CLOTH」の展開に期待したいと思います。


(取材/編集:加藤 隼、執筆:中野 雅允、撮影:宇都宮 竜司、デザイン:古川 央士)

2020-05-11|
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