【LeapsIn】したたかな戦略性をもって”食品業界の不”に向き合う

〈プロフィール〉
株式会社リープスイン(LeapsIn, Inc.) 
代表取締役CEO
日置 淳平 氏

2008年にキリンビバレッジ株式会社に新卒入社し、食品工場での生産管理、品質保証を経験。
その後、研究開発部門にて新規技術開発とその工業化に携わる。
2018年に社内ベンチャーとしてLeapsInを立ち上げ、代表取締役CEOに就任。スタートアップ企業や地域の6次産業における、食品プロダクトの量産化を支援するサービスの開発に取り組む。

目次

現場業務からペインを見出す

―まずは日置さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。キリン社に入社してから経験してきた業務について教えてください。
2008年に新卒でキリンビバレッジに入社しまして、缶コーヒー部門の工場での生産管理・品質管理の仕事からキャリアがスタートしています。
その部門で4年間働いて、その後は研究開発部門に異動しました。お茶やコーヒーの研究がメインだったのですが、成分の分析のアプローチから、新しいお茶を作るとか、美味しいコーヒーを作るとか、そういった研究開発ですね。

―研究開発部門への異動は日置さん自身の希望で?
そうですね。研究開発の仕事がしたいとは思っていましたので、希望を出して通った形です。この部門では6年くらい働きまして、複数のプロジェクトの立ち上げを経験することが出来ました。

―具体的にはどのような研究に関わっていたんですか?
例えばですが、出来るだけ味はそのままでノンカフェインのお茶を作る、といったプロジェクトなどです。商品ごとに生産するための技術が異なる中で、実際にどうやって生産ラインに乗せていくか、といった生産面でのオペレーションも一緒に考えていました。

―新商品開発におけるニーズ検証はどのように行っていましたか?
一般的な研究開発部門は、営業やマーケティング部門から要望があがってくる、いわゆる最終消費者からは遠い仕事になりがちなのですが、私たちは当時からデザインシンキング的な手法を使いながら「ユーザー視点に立った新しい切り口で商品を出していこう」というチャレンジをやっていました。
お客様の生活の中でのニーズを拾ってきて、そのニーズのもうちょっとだけ先を見て、未来に来る世界観を読んで、技術開発に落とし込む、というアプローチが当時の研究開発のトレンドでしたね。

―なるほど。そういった研究開発キャリアからどのような経緯で新規事業に関わり始めたんですか?
研究開発の仕事をしながら、2016年に社内のボトムアップ型の事業提案コンテストに応募して通過したことがきっかけです。
実は、その1年前の2015年にも構想としては近い事業で応募をしたのですが、その時は通らずでして。ただ、自分の中では「何としても実現したい」という想いがありましたので、1年間検証を続けて再提案して、2016年に通過することが出来ました。そして、2017年から正式に取り組み始めて、2018年に子会社を設立して事業を開始した、という経緯ですね。

―2015年の最初に応募した際、どのような思いを持ってのチャレンジだったんですか?
正直に言うと、既存の研究に対する閉塞感みたいなものはありました。「飲料もいいけども、もうちょっと世の中に新しい価値を提供することをしたいな」といった思いが起点になっています。

―LeapsInの事業はどこから着想を得たものだったんですか?
私自身が欲しいサービスを作った、というパターンですね。まずは自分が研究開発や生産管理の仕事をしながら抱いていたペインや業界構造の歪さに着目しまして。もう少し目線を上げて世の中を見てみると、皆が同じようなペインを抱えていることが分かってきて、事業提案に至った形です。

前例がない中でルール自体も自分で創る

―事業提案コンテスト通過後は、兼務で事業開発を進めていったんですか?
これは幸運なことなのですが、専任で検討を進めることが出来ました。
コンテストから事業化に向けて進むこと自体が初めてで、ルールも定まってない中でしたので、進め方のルール自体も提案していく、というような(笑)。

―すごい状況ですね。もともとは出口も決まっていなかった?
そうです。例えば「子会社を立ち上げたい」ということに関しても「子会社にするとこういうメリットがあるから子会社にしたい」ということを合理的に説明して納得してもらって、そういう形になったという。
最適な進め方も出口も、事業によってケースバイケースだと思うので、私の場合はルールがない状態でフラットに考えられて良かったと思っています。

―コンテストで提案したときから、事業化後の進め方や出口設計も含めて戦略的に提案したんですか?
そうです。最初の2015年の提案時は、「飲料とビールに特化したサービスとしてスタートする案」だったのですが、そうすると出口は必然的に既存のビール事業部や飲料事業部になって、事業部にいらないって言われたらそこで終わってしまう。
そこで、2016年には同じようなビジネスモデルのままで、ターゲットを「飲料とビール以外の領域」に振って提案をして、既存の事業部が持っている力学に巻き込まれないようにして、テクニカルに通した、というのがありました。

―2015年のコンテストでNG判断になって、2016年に再チャレンジするまでの間はどのような準備をしていたんですか?
自分で顧客のところに足を運んで検証をしていました。
そこで難しかったのが、本質的には「事業になる可能性」について検証しなきゃいけないんですけど、その1番の証明となる「顧客からお金をもらうこと」が出来ないということでした。
アンケートやヒアリングなど、様々な検証はありますが、最も確実な事業成立の証明は「お金をもらって、実際にやる」ことだと思うんです。
この期間は兼務ですらなかったこともあり、お金をもらうことは出来なかったので、その手前の「何社か仮発注を取り付ける」というところまでの検証は完了させることが出来ました。

―現業もある中での仮説検証の日々で、大変な苦労だと察します。
現業もありますし、部署内からも色々と言われたりしましたが、まずは「あまり気にしない」というのが基本スタンスでしたね。
あとは、新規事業って、当たるかどうか不安なまま進めなきゃいけないことばかりだと思うのですが、自分の中でいかに「それをやりたいと思って、可能性を信じられるか」が大事だと思います。

―なるほど。子会社設立も容易ではなかったと思いますが、どういう背景で子会社でやりたいと思ったんですか?
LeapsInのビジネスモデルの特性上、最初から大きな固定資産を持つ必要はなく、スモールスタートが可能なものだったんです。そうすると、「既存事業のしがらみからいかに上手く脱却して、早くサイクルを回せるか」がポイントになると読んでいました。そういった背景で、建て付けとしては子会社が望ましかったんです。

―テクニカルに考えた上での子会社設立だったのですね。
そうですね。あとは事業プランについても「事業領域とマネタイズ」の2つの視点で既存事業領域とはしっかり距離を置きました。

―それぞれ具体的にはどういう距離の置き方ですか?
まずは事業領域でいうと「飲料とビールはやりません」ということですね。そして、マネタイズの観点では、「物を売って儲けるっていうモデルにしない」と。この2つの観点でも既存事業と距離を置くことで、既存事業とはカニバリを起こさずにスムーズに進めることが出来たと思っています。

―社内起業をスムーズに進めるための良いケーススタディーになりそうですね。
スモールスタート出来るタイプのビジネスでは、これが上手く進める秘訣かな、と思いますね。

「業界構造の深い理解」が圧倒的な強み

―LeapsInの事業自体についても深掘っていきたいと思いますが、改めて事業内容についてもご説明をお願いできますでしょうか?
一言で説明しますと、「食品を作りたいと思っている人=ブランドオーナー」に対して、差別化されている原料生産者、稼働に余裕のある工場、最適な物流や販路、を組み合わせて提供して、「付加価値の高い商品、プロダクトを作れるようにしていく、プロデュースしていく」という事業です。

―立ち位置的にはプラットフォーマーのイメージでしょうか?
そうです。作りたい人と、そのアセットを持っている人たちをマッチングするんですけど、今はデータベースによる最適なマッチングの仕組みを模索している最中ですね。
当初の提案では、ブランドオーナーと工場のマッチングを考えていたのですが、あわせて原材料や物流、販路についての相談もいただくことがありまして、そこも組み合わせて事業の全体像を再構築しているところです。

―事業をローンチされてからの反響はいかがでしょうか?
ブランドオーナーさんからは順調にお引き合いをいただいていまして、ローンチから1年くらいで、20件程度のプロジェクトに携わっています。今は人力でのコンサルティングも含めて関わっているのですが、同時にノウハウを蓄積していくためのデータベースも開発を進めています。

―なるほど。中長期の拡大戦略でいうとデータベース開発に注力されていくのでしょうか?
ブランドオーナー側に対する提供価値としてはそうです。むしろデータベースの価値をメイン事業にしていきたいと考えていますが、やはりコンサルティングもセットで提供しなければいけない案件も多いので、2本柱で進めていくイメージですね。
もう片方側の戦略としては、現状は工場がメインですが、原料主・販路の開拓も戦略的に進めていって収益源を拡大していきたいと思っています。

―もっと大きなスコープで見たときに、どのような世界を作っていきたいですか?
まだ立ち上がったばかりの会社なので、まずは今のお客様のサクセスをしっかりサポートしていくのが前提なのですが、その上でのミッションとしては、「食品業界の情報の非対称性を解消する」ことですので、データベースの蓄積によって「より効率的にプロダクトを生み出せる世界」を創っていきたいですね。

―「食品業界の情報の非対称性」、課題の根が深そうですね。
複雑な課題になっている背景は2点ありまして、まず1点は、業界として非常にアナログな部分が残っている業界であるということ。
もう1点は、非対称であること活かして上手くビジネスをしているプレイヤーもいて、この人たちとも上手くやっていく必要がある、ということですね。

―構造が複雑だからこそ参入障壁も高そうですね。
そうですね。食品業界ってバリューチェーンがものすごく煩雑なんです。それを整理して並べようとしただけでもすごく大変で「その何万ピースあるジグソーパズルを、今から人生かけてやりますか?」という話ですので、勢いのあるスタートアップも簡単に入ってこれないような領域だと思っています。
私の場合は、これまでのキャリアで研究開発と生産管理の両側を見るという貴重な経験が出来たことがとても大きかったと思います。

―「企業内新規事業における勝ち筋」のヒントがありそうですね。
企業で働くサラリーマンのメリットって「既存の業界構造を深く知っていること」だと思うんですよね。
企業内新規事業においては「自分でアプリ作れます」みたいな若者では絶対に出来ないような事業をやらなきゃいけなくて、業界構造に着目したビジネスの方が成功しやすいんじゃないかな、と思います。

―飛び地を追いかけるよりも、業界の深い課題を捉えるということですね。
だって今の若者は凄いですからね。私のようなアナログ世代の人間では、同じようなアプリビジネスの土俵で戦ったらまずスピードで勝てないです。
ただし、逆に言うと「そこに勝ち筋はまだまだ眠っているであろう」と思っています。本当に。

社内起業家としての働き方

―「社内起業家としての働き方」についても伺っていきたく思いますが、まずはメリットとして享受出来ていることはどのような点ですか?
まずは、単純に「バックボーンがしっかりしている」と見てもらえて、信頼を得やすい部分は非常に大きいですね。
ただし、そのキリンブランドとの距離感っていうのも結構悩ましくて。私は名刺からもキリン色は完全に抜いて、企業ページにも書いてないんですけど「必ずしもネームバリューを使えばいい」という話でもないと思っています。

―本体の名前を出しすぎることのデメリットはどんなところですか?
まずは、スピードが圧倒的に遅くなりますよね。下手をすると「受注する案件は全て本社通してください」みたいな状況にもなりかねません。
あとは、キリンの名前を出すとネガティブに捉える競合さんもいたりします。クライアントと一緒に工場視察に行ったりすることもあるのですが、キリンの名前を出しただけでびっくりされてしまうこともあるので、ネームバリューも使い方次第だな、と思います。

―本体のリソースはどの程度活用されていますか?
経理や法務などのバックオフィス側は活用しています。ただし、これは既存事業と距離を置いているからこそなのですが、例えば営業機能などの事業部が持っているリソースは活用できていないです。
いつかはその面でも既存事業とシナジーを生み出していかなきゃいけないとは思うんですけど。

―中長期的な目線でシナジーを考える、ということですか?
そうですね。フェーズを分けて都合よく考えた方が良くて、本当に立ち上げる瞬間だけを切り取れば、極論シナジーはなくていいと思っています。企業内でボトムアップで立ち上げる場合、皆さんシナジーを考えすぎだと思うんです。

―最初はシナジー度外視で良いと。
ぶっちゃけて言うといらないです。もともと社員が起案しているので、事業を立ち上げていけば、いずれはシナジーって勝手に生まれてくるんですよね。だから初期フェーズでは「少しでも接点があればいい」くらいに考えています。

―それで社内を説得できたのもすごいと思います。
当時は、シナジーと言われたら、正直に「今はないです」って答えてました(笑)。
あとは、「必然性」という言葉もポイントです。新規事業の起案シーンで必ず聞く言葉ですよね。その点で困ったらぜひLeapsIn社に相談しに来てください。

―日置さんから見て「社内起業に向いている人材」をどう定義されていますか?
まず「自分の中にモチベーションを持っている」という要素は必須ですね。
大企業にはハンドルを握れる人はいっぱいいるんですけど、圧倒的に足りないのは「エンジンの役割をする人」なんですよね。それでいて、他者からの評価によってモチベーションが上がるタイプの人もあまり向いてないと思います。
なぜなら、新規事業をやっていてもめったに評価されないから(笑)。

―いわゆるサラリーマン的なものさしで物事を考える人は難しい、と。
そうですね。既存の人事評価制度をベースに考えると、一時的には必ず評価は落ちます。
ただ、そこに一喜一憂しないことはものすごく大事なポイントでして、いわゆる承認欲求の方向が他人に向いている人は辛いと思います。

―スキルの観点ではいかがですか?
物事を構造的に捉えられる人の方が向いていると思います。
「いま山の何合目にいて、何の検証をしているんだっけ」っていうことがよく分からなくなってきますので、そこは冷静に分析する目線も必要ですね。

―「社内評価はいったん落ちます」と言い切られましたが、日置さん自身は今後のキャリアビジョンをどう見据えていますか?
新規事業への挑戦をためらう人の背景として「その先のキャリアが見えない」っておっしゃる方はよくいるのですが、「じゃあ逆に既存事業にいたらキャリアは見えますか」ってことは前提として思っています。
それでいて、私の話でいうと、目指すところはシリアルアントレプレナーです。

―イントラプレナーではなくアントレプレナー?
いずれはそうですね。
今の事業は社内の枠組みの中で間違いなく本気で取り組んでいるのですが、あくまでも「企業内起業」ですので、究極的には守られた存在なんです。そこをいずれは脱しないといけないな、と。
また、社内の枠組みの中だと基本的にはP/Lで事業を評価するので「本当は将来性のある事業なのに、そこに投資できなくなる可能性がある」というのは大きな課題だなと。
今はLeapsInの事業を成功させたいですが、いずれはそういったキャリア選択も見据えていきたいとは思っています。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。
よく若いサラリーマン層から「やりたいことがない」って話を聞きますけど、世の中にこんなに社会課題が溢れている中で、なんでやりたいことがないんだろう、と逆に不思議に思うことがあります。
ですので、まずは何でもいいので「気になる」「おかしい」と思ったことは自分でやってみる、検証してみる、ということが大事だと思っています。そうやって実際に自分でやってみたら、「やりたかったこととはなんか違ったな」って分かるんですよね。それを繰り返していると、次第に自分がやるべきことがかたまってくると思っています。

Steve Jobsのスタンフォード大学卒業式でのスピーチ、いわゆる「Connecting the Dots」の話が好きでよく見るんですけど、その裏にはたぶん繋がらなかった点が死ぬほどあるんですよね。だから「点を増やすこと」すらやらずにいるのはもったいないと思っています。

私も研究開発部門の時に、提案して潰れた企画もすごく多いんですけど、その方向転換はいわゆる「ピボット」とは少しイメージが違うんです。
概念的な話なのですが、螺旋のように回りながら3次元的に前に進んでいく、「ヘリックス」という概念を提唱しています(笑)。自分の中に軸はあって、当初とは原型を留めないような変化をしながら、ミクロで見ると前にしっかり前に進んでいる、というイメージですね。

まずは自分の中での「おかしい」という気持ちを大事にしながら、一歩前に進む気持ちを大切にしてほしいと思います。

編集後記

前例のない中で事業化・子会社設立をしたLeapsIn社の立ち上げ背景には、現場業務で見出した力強い仮説と緻密な戦略性がありました。

事業機会の見出し方についても、業界を超えて応用できる「企業内新規事業だからこその勝ち筋」のヒントが散りばめられていたかと思います。

食品業界の構造を根本的に変えうるポテンシャルを持つLeapsIn社の事業展開に、今後も期待して見守りたいと思います。


(取材/編集/構成:加藤 隼、撮影:川上 裕太郎、デザイン:古川 央士)

2019-09-26|
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