Interview

【ソフトバンク・ベネッセ】異文化融合のJVが創る未来の学校教育Classi

【ソフトバンク・ベネッセ】異文化融合のJVが創る未来の学校教育Classi

連続で事業の立ち上げ経験を積む

―最初に加藤さん自身のキャリア・経歴についてお伺いしたいと思います。Classi立ち上げ以前に関わった業務について教えてください。

大学卒業後の最初のキャリアは、旧日本テレコムの国際事業部で、日本と海外を海底で結ぶ通信用光海底ケーブルの投資・回収を考える部門での仕事でした。

その後、各事業部の事業予算や事業計画の策定、国際通信会社のM&Aなどを経験し、日本テレコムがソフトバンクの傘下に入ったことから、最終的にソフトバンクに入りました。これが入社して3年目くらいまでの経験です。

―とても濃い若手時代ですね。事業企画の業務を経験されたのは、その後からでしょうか?

はい。その後は、経営企画部で新規事業の立ち上げを担当していました。

「新規事業を作らないと既存の固定通信事業だけでは継続成長は難しくなるのでは」という問題意識を持ちながら、「次の収益のネタをどうすべきか」ということを常に考えていました。
そして、29歳の時にソニーとのJVを作るという事業を企画して、会社から、承認と資金を得ました。自分で事業プランを作ったので、そのまま、「メンバーと上司と一緒にそこに飛び込みたい」と言って、そのJVに行ったんです。

―かなり裁量権が大きいですね。

そうですね。計画通りの結果が出ないこともありましたが、自分で考えたプランを実行していくことができ、裁量権はかなりありました。

―そのJVを経て、その後も何度か事業の立ち上げを経験されていますよね?

その後、「今後、モバイルがインターネットの中心になる」ということで、旧ソフトバンクモバイルに移り、モバイルインターネット×コンテンツを扱う部署に所属することになりました。

ちょうどスマートフォンがこれから来るというタイミングで、具体的には何をするのかも決まってない状態で「シリコンバレーに行って契約してこい!」みたいなプロジェクトを担当することになって(笑)。

今でいうGooglePlayのマーケットで、日本のキャリアがまだやっていなかったレベニューシェアの契約を作ることに。
その後、米国、イギリス、中国などの多国間でのJVに出向して、米国人のマネジャーについて仕事をしたり、米国企業とソフトバンクで新たなJVを設立したり、Sprintとソフトバンクで共同のプラットフォーム事業を立ち上げたり、といろいろな経験をしました。

―Classiの立ち上げ以前から、事業立ち上げの経験を何社もいろいろなパターンでやってこられたんですね。

そうですね。失敗もたくさん経験してきました(笑)。

Classiのプロダクトの軸

―Classi事業の立ち上げについてお話を伺っていきたいと思いますが、その前にサービスの概要と特徴について簡単に教えていただけますでしょうか?

現在、4つのプロダクトの軸があります。

1つ目は、学校で出される宿題などをパーソナライズしているというところ。一人ひとりの学力や理解度が違うので、Webやデータ解析の技術を使って、一人ひとりに合った問題を出題しています。

2つ目が、「学びの形を進化させる」という理念で会社を作ったので、「ポートフォリオ」という学校活動を蓄積し、振り返る仕組みを取り入れています。日記のような形式で、目標に対する振り返りや気づき、次のアクション計画を書くというもの。メンバーや先生からフィードバックをもらったりして、答えを与えるのではなく、自己内省を呼び起こすようなアドバイスを先生がしていくというようなツールを提供しています。

私自身も組織に紐付かないプロジェクト型の仕事が多くて、その働き方から学んだことも多かったので、そのような仕組みをサービスに反映しました。クラス単位ではなく数人でチームを組んで、自分たちでやりたいプロジェクトを決めて短期間で調べたり、関わる人にインタビューに行ったりといった、プロジェクトベースの学びも支援できる、新しい学び方のツールです。

―旧来の学校教育ではなかった学びの仕組みですね。

自己評価をしながら、他メンバーからの相互評価も得ることによって、違う視点を得ることができる。私が今までの仕事の中でやってきたようなことを、少しかみ砕いて、提供しています。

そして、3つ目がプラットフォーム、という形でサードパーティの教育アプリをClassiのオプションとして提供しています。ClassiのIDとパスワード一つで、さまざまなサービスにサインオンできるので、それぞれ別のIDやパスワードを取得しなくて良いことがメリットです。

そして、4つ目に、学校での教育のベースになっているのは結局コミュニケーションのやり取りなので、Slackのようなコミュニケーション機能を提供しています。先生が見られるようになっているので、子供にとってはちょっと居心地が悪いかもしれないですが、安心して使ってもらいながら、さまざまなコミュニケーションをサポートしています。

「教育のど真ん中」を狙ったClassi事業の立ち上げ

―Classi事業の立ち上げにあたって、どのように市場と課題を捉えて事業機会を見出したのでしょうか?

私はずっと新規事業を立ち上げるという仕事をしてきたので、その時のアプローチと変わらないのですが、まずは「日本の大きな課題が何なんだろう」ということを考えますよね。市場が大きいというよりは、「課題として大きいもの」を捉えようとする。

いろいろな課題を考える中で、最終的に「教育」と「高齢化×医療」という2つのテーマに絞りました。その中で、今の子供たちが社会に出た時に、もっと生産性が高かったり、もっとイノベーションを起せるようにしたいという考えで「教育」を選びました。

規模でいっても教育市場は20〜25兆円くらいで、国内の通信3社合わせて10兆円くらいなので、それの2倍以上ある。大きくて、ITが入っていなくて、その子たちをサポートすることで彼らの卒業後の長い人生、つまり社会が変わっていく、ということで、そこに懸けたいなと。

―なるほど。とても意義深いですし、市場サイズも大きく、変えるチャンスもあるという考えですね。立ち上げにあたって、どのような点で苦労しましたか?

よく、ソフトバンクグループの孫正義代表は「ど真ん中を行け!」と言われます。教育の中でも1番大きな「学校教育」の領域で事業をやると定めたのですが、そもそも学校教育の現場には簡単に入れなかった。どのようにお金が流れているのか、意思決定者は誰なのか。企業のように総務部や情報システム部がある訳ではない。学校に訪ねようとしても、誰に訪問したらいいのかわからない。

そういう壁にぶつかりながら、右往左往をしていた時に、ベネッセに「学校カンパニー」という、進研模試をはじめとするサービスを学校向けに販売しているチームがあると聞いて、すぐ会いに行きました。

―どのような話をしに行ったのですか?

どこよりも「学校の課題をご存知なんじゃないか」と考えて聞きにいきました。

そして、「ITが学校にも必要だ」という国の方針もあり、ソフトバンクがITに強いことはもちろん、ベネッセ側も知ってくださってました。そして、パートナーとして「組みましょう」と。

―JV設立が決まるまで大変な苦労があったかと想像しますが、経緯や決め手について教えていただきたいです。

過去のビジネスの立ち上げの経験から、もう人と人だと思ったので、「相手の人が誰なのか、どういう思いでその事業に取り組んでいるのか」そればかりを考えてました。

また、さまざまな会社がある中で、「ソフトバンク」を選んでもらう必要があるので、私自身がどういう思いで教育をやりたいと思っているかを丁寧に説明しながら、設立にこぎつけた、という経緯です。

―カルチャーも異なる企業同士の融合だったと思いますが、JV設立後の組織運営のポイントを教えていただきたいです。

お互いに無いモノを持っているからこそ組むんだと思うんです。その無いモノ、無いけど必要なモノをより明確にすることだと思います。

今回のケースだと、当時、私たちには「学校教育への知識」が無く、反対にベネッセはあまり「IT」に馴染みが無い。だからこそ、そこをお互いに学ばせてもらうし、リスペクトしよう、というのが大前提であるので、そこは何回も何回も社内で発信しています。

あとは、私自身の経験上、上手くいかない場合よくありがちなのは、「遠慮してしまう」ことです。「相手を傷つけたくない」という思いから言わないようにしていると、かえって失敗のもとになるので、配慮ばかりせずにあえて発言することもあります。

早く面を取って、高速で検証・改善を回す

―Classiが今のポジションを築くまでにどのような戦略を描いて実行されてきたのでしょうか?

プラットフォーム型の事業だと思いましたので、「面を押さえる」ことをスピード感を持って実行しました。

2014年当時、まだ学校にはインターネット環境が普及していない中だったのですが、まずは100校にサービスを使っていただくようにしました。並行してプロダクトのダメなところはどんどんフィードバックしていただきながら、「いろいろなところでClassiの名前を聞く」という状態を早く作りました。また、ベネッセの優秀なメンバーが一緒に動いてくれたので、非常に短期間で多くの学校に提供できたと思ってます。

その後の成長については、本当に良いスパイラルです。導入が進めば、お客様から学校の課題をダイレクトに聞けるようになります。他の競合よりも早く多くの課題を聞くことができた。あとは自社内で優秀なエンジニアを採用することで、早くプロダクト化して手を打てば、お客様に満足してもらえる。そういったことを繰り返していきました。

―その後は、何かターニングポイントになる出来事はありましたでしょうか?

2017年に、Classiの標準機能として、学習動画のサービスを開始しました。この動画をベネッセのテストの結果と連動させることで、一人一人へのきめ細やかなパーソナライズのレコメンドが出来るようになりました。

ベネッセのテストは多くの学校に受け入れられているので、このサービスによって、テストの結果と連動して学べるという、お客様の満足度が高まった。これは1つの転換点でしたね。

Classiが目指す未来の教育の形

―今後のClassi社としての展望や目指す世界観についてあれば教えてください。

一言で言うと、データを活用したプロダクトを通じて、新しい価値を学校にご提供していきたいと思っています。AI、ディープラーニング活用の流れもそうですが、データが肝だと思っています。

学校教育っていう非常に大きな場所ですけど、これまでITが入っていなかったために見えていなかったものがたくさんあります。それが少しずつClassiで見えるようになってきて、ログに残るようになりました。昨日までの過去の累積だったり、今の瞬間のクラス・学校・地域の中でのポジショニングだったり、それらを踏まえて、今日、明日、明後日、こういうことをやった方がいいよ、ということをしっかりとプロダクトの中に活かして、先生や保護者に、もちろん生徒本人にも返していきたいです。

そして、今までは先生たちも、もしかすると感覚的に捉えていた生徒の頑張りをさらに可視化して、よりエビデンスを持って教育ができるようにしたいし、今までやれていなかった、気づいていなかったところが、ログによって見えるようになる、ということを提供していきたいと思っています。

―ITの力があってこそ目指すことができる世界観ですね。教育の周辺の領域も染み出しで手がけていくのでしょうか?

少しずつですが、学校という枠を超えて、違う学校同士がプロジェクトでつながって、学び合いをしていたりするケースも出てきています。

だいたいは、隣の高校と一緒に勉強することはまずないですし、ましてや違う地域だとなおさらそうです。ところが、Classiを使っている学校の生徒同士は、地域も国も超えて、グローバルイシューである「水・電気・エネルギー」といった、国と地域が違えば、全く概念が違うことを一緒に学び合う。

「そもそも水ってお金かかるんだ」とか「そのまま飲めるんだ」とか。そういうところから違いを感じるということを理解する学びの機会を提供していたりします。そういったところも新しい学びの進化かな、と思っています。

社内起業家としての働き方

―加藤さんはこれまで既存事業ではなく、新規領域や社内起業の経験をたくさん積んでこられていますが、その中での苦労のエピソードを教えていただきたいです。

縦割りの組織だと動きづらいことが多いですね。「やりたい」と思って、やれる人を探したら、自分の組織にいないことも多くて、アメーバっぽい形でやることも多いです。そうすると、そもそも意思決定者がいなかったり、その活動を応援してくれる社内スポンサーもいないですよね。その手前の一歩目、二歩目の動き方とか、お金を動かす意思決定の仕方には苦労します。

また、意思決定した後でも、支援する財務や法務といったプロをちゃんと入れて、より大きなオフィシャルのプロジェクトにするという、その一歩一歩が決して簡単ではないです。

―大きな組織なので、縦割りで階層も複雑ですよね。

でも、一つ一つの与えられた仕事の中でも、縦で区切らずに、誰かが困っていたら助けてあげたりしていると、「あの時に助けてもらったんだったら、絶対あの人のことを助けるよ」っていうような個の繋がりって、どんな組織でもやはりありえると思うんです。私はそっち側でやってきた感じがあるから、そういう繋がりが活きて、私が何かやりたかったり、困った時に助けてくれる人がいたと思っています。

自分の業務範囲だけで仕事をしたり、自分の業務領域に入ってくる人を排除してしまうような、大企業で起こりやすい働き方をしない、っていうことがポイントなのかもしれないです。

私のキャリアとしては、ずっと海外や新規領域をやっていますけど、全部のキャリアを1本に刺すと、自分だけでやっていなくて、パートナーと一緒にやってきたと言えます。自分に足りないことを持っている人に助けてもらう、ということは常にあったので、どんな仕事でも「助けてもらう、助けてあげる」「困った時はお互いさま」ということを思いながらやっています。それが、人間関係につながっていく部分があるんでしょう。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々へメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。

どんなことでも熱量は絶対に重要です。「私がやりたいんだ!」という、そこだけは譲らないようにしています。一人だけではできないので、仲間を探すっていうことになりますけど、声をかけられる仲間もやっぱり自分が本気じゃなかったらやってくれないですから。
「やりたいな、こういう風にしたいな、こんなのがあった方がいいのにな」っていう話はよくいろいろなところで聞くんですけど、どこまで本気なのか、ということです。

経営企画にいた時も、「こんな企画をした方がいいんじゃないですか」みたいに、批評家として言っているだけではダメなので、描いた絵があるんだったら、自分でやってみるようにしていました。それで自分の力をつけたかったし、試したかった。「絶対やるべきだ、絶対上手く行く」と思いつつ、それで何度も失敗もしたのですが、その熱量はやっぱり重要で、そのぐらいの想いが必要なんでしょう。「どこかに分かってくれる人がいるから諦めたら終了だ」というのと一緒で、熱量がすごかったら、なかなか諦めないでしょう。それが一番大事なことだと思います。

編集後記

これまでのキャリアの中で、何度もハードなチャレンジを繰り返しながら修羅場をくぐり抜けてきた加藤さんだからこその「熱量が絶対に重要」という強いメッセージが印象的でした。

日々の仕事の中で「自らも与えることで個のつながりと仲間を増やす」という仕事の仕方も、組織横断での新規事業を推進する上で、すぐにでも活かせるスタンスだと思います。

ITを駆使して未来の学校教育を創ろうとするClassiに、今後も注目していきます。

 

取材・編集・構成:加藤 隼 撮影:内山 雄登 デザイン:古川 央士

加藤 理啓-image

Classi株式会社

加藤 理啓

2001年に旧日本テレコム株式会社(現ソフトバンク)に新卒入社。 入社後は、国際事業部で海外向けの投資業務に従事した後、経営企画部でJV設立や、新規事業の立ち上げを複数回経験。 2014年にソフトバンクとベネッセホールディングスとの合弁で、Classi(クラッシー)株式会社を設立し、代表取締役副社長に就任。