【NTT Com_SpoLive】大企業の「論理」とスタートアップの「情熱」を併せ持つ事業リーダー

〈プロフィール〉
NTTコミュニケーションズ株式会社
SpoLive事業グループ 代表
岩田 裕平 氏

2013年にNTTコミュニケーションズ株式会社に新卒入社後、R&Dや新事業開発におけるUXデザイン・ブランド戦略推進に従事。
2017年よりデザイン経営を推進するプロジェクトにジョインし、社内外へのデザイン経営の普及活動に携わる。
2018年からは社内の新規事業提案制度での起案をきっかけとし、事業責任者として「SpoLive」事業立ち上げ・運営を推進。また同年に社外の様々な団体との共創による事業創出を促すべくオープンイノベーションプログラムを設立。
経済産業省主催「始動Next Innovator」3期生選抜メンバー。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

目次

導入

NTTコミュニケーションズの社内ベンチャーとして「スポーツチーム/ファンの関係性」の変革に挑む「SpoLive」事業。
社内の新事業コンテストでの起案をきっかけにして、どのようにして事業立ち上げ/推進を進めていったのか。
起案当初から同事業の事業リーダーとして、立ち上げを強力に推し進めてきた社内起業家に取材しました。

「新規事業」×「サイエンス」を軸としたキャリア選定

―まずは岩田さんのキャリアについてお聞きしたいと思います。入社後に経験してきた業務について教えてください。
2013年にNTTコミュニケーションズに新卒入社して、最初はグループ会社へ出向してR&D関連の仕事をしていました。主に地域情報系の研究開発で、新しい地図の基盤技術や、混雑度を解析する技術の開発等をしていました。
ただ、入社当初からずっと新規事業にチャレンジしたいという想いを持っていまして。「もっとサービス、ビジネスの現場に近いことをやりたい」という発信を続けながら、個人としての研鑽を行っていました。

―具体的にはどのような活動をしていたんですか?
会社から大学院に行かせてもらい「グローバルアントレプレナー育成プログラム(文科省EDGE)」を修了したり、デザイン系のスクールにも通って「広義のデザイン、UXデザイン」を学んだりしていました。
そこで学んだことをベースとして、プライベートでもいくつかサービスをつくったり、社内でも「広義のデザイン」の考え方を広めるような活動を行っていました。

―就職活動の際から「新規事業」に重きを置いてたんですか?
元々は博士過程へ行くか悩んでおり就職活動はあまりしていませんでした。
しかし、社会に出るからには「新しいことを社会実装できる場所」に行きたく、いわゆるベンチャー志向で、見ていた数社は大学関係のスタートアップや、当時盛り上がっていたメガベンチャーでした。
ただ、大学院まで相対論や量子論を元にした理論物理の研究をしていたこともあり、BtoCのサービス運営だけでなく、基礎研究や新技術開発といった「サイエンス」領域の取り組みにもしっかりとリソースを割いている会社がいいな、と思ったんです。

―いわゆる「研究所」としての機能を持っている企業ですね。
そうです。当時はそのような研究所を持っていた企業は数えるほどしかなかった中で、NTTグループは基礎研究の機能を持っていて、その中でも特にチャレンジングな社風を感じたNTTコミュニケーションズに就職を決めました。
当時の採用コピーが「変えていけ、すべてを。」ですよ。個人としても挑戦出来そうだと思って入社して、結果的に今その感覚で働けているので非常に良い選択だったと思います。

転機となったビジネスアイデアコンテスト

―R&Dメインの仕事から、どのような経緯で新規事業に関わり始めたんですか?
大きな転換点となったのは、入社4-5年目の時に応募した社内の新事業コンテストです。同期や先輩とチームを組んで出場したのですが、そこで優勝させていただくことが出来まして。そこから今の「SpoLive」事業に繋がっていく本格検討を開始しました。

―なぜ「スポーツ」という分野でチャレンジしようと決めたのでしょうか?
この事業に取り組む以前は、ごく普通の「スポーツ観戦好き」でした。小さい頃から学校を休んでMLBを見たり、J1クラブのFCに入ったり、注目の試合があればテレビ観戦したりする程度で、ファン度としては一般の皆さんと何ら変わりませんでした。1つのエンタメコンテンツとしてスポーツが好きだったくらいです。
最初はメンバーでどんな領域にするか、割とエンタメ寄りの候補の中で世情も考慮しつつ決めたのですが、その後検討していくプロセスのなかで、プロのアスリートやコアなファンの方と会話したり、関連メディアや業界に接する機会が増え、スポーツ業界の魅力にみるみるハマっていったという感じ。肉体の限界に挑戦するアスリート達に対して、リスペクトする気持ちが芽生えました。また、もともと志していたサイエンスとともに、趣味としてエンタメ・コンテンツ領域も好きだったため、徐々に自分の好きな領域とも重なっていきました。

―構想当初はどのようなプロセスで事業開発を進めたのですか?
構想の初期段階では、NTTグループに関連するプロスポーツチームや所属する選手、ファンの方々に対してとにかくインタビューに行って、リサーチをしました。
その結果として「スポーツチームやアスリートとファンを繋ぐ」という、現在のサービスコンセプトに近いものを提案するに至りました。

―まずはとにかく顧客の声を拾っていったんですね。
そうですね。週末にはチケットを自腹で買ってラグビーを観に行ったり(笑) 。
地道な検証をひたすら繰り返しながら、事業として価値があるものに仕立てていく、ということを進めてきたイメージですね。
小さな検証も含めたら、数百を超えるくらいの検証を積み重ねまして、その過程の中でソリューションの形を変えながら、今の事業の形になっています。

―検証を繰り返す中で、どのような壁にぶつかりましたか?
例えばですが、スポーツの試合結果はニュース型で知らせるのか、リアルタイム性を重視するのか等、サービスとしての立て付けや表現手法については試行錯誤を繰り返しました。
「自分たちが生み出したい価値のために、何をどのような方法で提供するのか」について、何度も行き来を繰り返して、ぐちゃぐちゃになりながらも、上手く収まるところを見つけていったようなイメージです。

―どのような軸で考えて、判断して、決めていくのか、は悩む部分ですよね。
特に難しかったのは「戻る」という判断の部分ですね。
社内の新事業コンテストがハッカソン的な側面を持っており、コンテスト当日には動作するプロトタイプが必要だったため、既にある程度のプロトタイプが出来ていました。1度作ったものをどこまで壊して良いのか、とても悩みました。
忙しい中で時間を作ってコードを書いたメンバーもいる手前、いざ「今までのものを捨てる」となったら軋轢も生まれますしね。

―メンバー全員が腹落ちするように、合議制で決めていったのですか?
最後の拠り所にしたのが、チームで決めた「ビジョン」でした。
実際には全員での話し合いでは決めきれない問題も出てくるので、そんなときは私が「ビジョン」基づいて決めていました。そういった意味では、事業を一番強く「やりたい」と思っている人がリーダーを務めて、責任を持って決める、ということは大切だと思います。

「ファン」と「選手/チーム」の関係性を変える

―現在の「SpoLive」事業について詳しく教えていただけますでしょうか?
ビジョンとしては「スポーツファンとアスリートやチームの距離をデジタルの力で縮める」と掲げています。スポーツチームやアスリート、それをサポートするファンをそれぞれ支えるための事業を目指していて、プロ/アマチュア問わず、スポーツチームやアスリートとそのファン向けのアプリケーションを提供しています。

―具体的にはどのようなサービスを提供しているんですか?
現在はスポーツの試合中にリアルタイム実況や解説が楽しめるアプリを開発しています。具体的には、試合を見ながら、フィールドにいる選手のより詳しい情報が得られたり、分からないルールについての質問が出来たりするものです。
リアルタイム情報提供については、ラグビーやサッカーの国内リーグはもちろん、海外リーグ等にも対応しています。

―スポーツチームとファンのエンゲージメントを高めることを補助するサービスのようなイメージですか?
まさしくそのイメージです。
このサービスによって、スポーツチームとファンの間のエンゲージメントを高め、従来とは違ったファン、サポーター向けのコミュニケーションを提供したいと考えています。試合に来てもらって、ファンクラブを作って、グッズを買ってもらって、という方法以外にも、チームとファンがコミュニケーションを取れる手段を提供していく予定です。

―その構想に対しても、具体的な取り組みを始めているんですか?
すでに検証を始めていて、弊社のラグビーチーム「シャイニングアークス」では、ファン向けの情報提供も含めた実運用を始めています。
さらに、チームが行っているマーケティングの効率化や、従来の収入源である「チケット、グッズ、スポンサー、放映権」とは少し違った視点で収入を生み出せるような仕組みを提供していきたいですね。

―もっと長期の目線ではどのようなチャレンジをしていきたいですか?
まずはファンの方々とチーム/選手が双方向に交流できる機能や、先端技術を使ったコンテンツ提供をスコープに入れています。
そして、もっと先の形で言うと、プロ/アマチュア問わず誰でも試合のリアルタイムデータを簡単に提供でき、サポーターの方々がどこにいてもその試合を熱く応援できるようなサービスも提供していきたいと考えています。
プロ/アマチュア問わず、顧客層ごとにクリアすべき課題は山積みですが、競技人口の多いサッカーや野球を含め、潜在的なマーケットは大きいと信じて取り組んでいきたいと思います。

社内起業家としての働き方

―大企業の中で新規事業に取り組む中で、良いことも悪いこともあると思いますが、岩田さんが考えるメリット/デメリットについて教えていただけますでしょうか?
まず圧倒的に大きなメリットは資金面ですね。半期に1回の報告会があって、そこで予算を取りに行くという仕組みです。スタートアップで言う資金調達ですね。
これに伴って、事業計画をベースとして説得したり巻き込んだりしなければならない人も沢山いますが、基本的には筋が通っていれば十分な資金が調達できています。

―資金面以外ではいかがでしょうか?
「SpoLive」事業においては、NTTグループとして複数のスポーツチームを持っていたり、スポーツリーグとパートナーシップを組んでいたりすることは非常に大きいですね。そういったアセットが活きる事業として評価してもらえている側面も大いにあると思っています。

―大企業であるからこそ出来る戦い方ですね。
実は、NTTグループは長年スポーツとの関わりが深かったものの、「これ!」という事業はなかったんです。「SpoLive」は新規事業であるとはいえ、今までグループとしてスポーツを支援してきた歴史が活きる事業だとは思っています。
あとは、やはり誰でも知っている「NTTグループ」というネームバリューと信用力は大きな武器になります。個人の起業家だとなかなか会ってもらえないような方にも、時間を作っていただけることは、とても大きなメリットですね。

―バックオフィス関連業務で本体リソースが使えることもメリットではないでしょうか?スタートアップの方からは、ペーパーワークに割く時間が多くて…という悩みもよく耳にします。
そこはメリットでもあり、課題でもあるんです。
例えばですが、事業メンバーの人事・労務管理は本社が行っているのですが「人事面が本社管轄=私たちチームには採用・異動権がない」ということになるんです。現状どんなに良い人がいても、自分の裁量でこの事業のために中途採用や人事異動をすることは出来ません。インターンやアルバイトの受け入れすら制限があります。

―人的リソースは基本的に社内異動でまかなっているんですか?
自社社員であっても公式に事業メンバーとして認めてもらうハードルはありまして、ボランティア的に手伝ってくれている有志メンバーもいます。また、兼業的に携わってくれている本当に豪華なメンバーに恵まれ、何とかなっています。
そういった大企業ならではの調整ごとの煩雑さ、スピード感の遅さを感じるとはありますが、先に述べたメリットも大きいので、本当に一長一短ですね。
社内起業家育成制度へのフィードバックも私の仕事の1つなので、このような部分における最適解については、引き続き議論を続けているところです。

―あえて「社内起業家」という選択をするならば、どんなマインドの人が向いていると思いますか?独立して事業を立ち上げるのとはまた違ったマインドが必要でしょうか?
まずは「しつこい人」。家族にも友達にも言われるのですが、私は相当しつこいらしいです(笑)。
社内起業の場合、どうしても調整業務も多くなるので、これは必要不可欠なマインドだと思います。私もしつこくて負けず嫌いな性格のおかげで、会社の制度にも食らいつきますし、社内の偉い人のところへも直接説得に行けますし。

―「しつこさ」と加えて、「合理的な説明力」も大切ですよね。
そうですね。私は「言い訳」と呼んでいるのですが(笑)、社内の様々な立場の人に対して、合理的でロジカルに説明して回る必要があります。それでも横槍が入ったりすることがありますし、とにかく熱量高く「やってみてから考えよう!」だけでは、なかなか話が通りません。
この部分は、企業の中から事業を動かしていく社内起業家ならではの工夫ですね。

―会社内で上手く事業を推進するために、どんなことに気を配ったら良いと思いますか?
社内外からの「プレッシャー」を上手く活用すると良いと思います。
例えば、社内のルールを変えたいときは、外部の権威者を連れてきて「あの人がこんな風に言っているから、変わらないとまずい」という「外圧」をかける。
逆に、社内でも理解のありそうなキーパーソンを味方につけることも大事です。そういった人を一緒に外部に連れ出して、今度はその人たちに「内圧」になってもらう、というイメージですね。
例えば、「始動Next Innovator」のデモデイに当時の上司を招待したところ、非常に刺激になったようで、最終的にはそのプログラムのスポンサーになることができ、社内の新事業文化醸成に寄与できたということもありました。

―実際に「外部の現場」に触れてもらう機会を作る、ということですね。
そうですね。今ではそのプログラムのデモデイには、弊社役員クラスにも審査員として参加してもらっており、外部の新しい技術やアイデア、スピード感を肌で感じてもらう機会になっているのではないかと思っています。
先に述べたようなロジカルな説明で納得してもらうことも大切ですが、実際に現場を肌で感じてもらうほうが伝わるということはあると思います。

―事業推進する上で、マインド面で意識されていることはありますか?
自分の想いを実現させるためには「あの人に怒られる」とか「自分の評価が下がる」とか、そういうことを気にせずに動ける突破力と心理的安全性が大事だと思います。
特に大企業の場合は、自由にやったからといってクビになるようなことはないのに、無用な忖度でブレーキをかけて、なかなか動けていない人も一定数いるように感じていますね。
また、その心理的安全性を作っていくことこそが経営者やイノベーション組織のマネジメント層に必要なことだと私は考えていますが、まだまだ弊社には浸透しきっておらず、「のびしろ」ばかりです。

―岩田さんは常にモチベーションも高くキープされている印象ですが、マインドを保つためのコツはありますか?
社外で同じようなことをやっている人たちとコネクションは大切にしています。同じようなモチベーションで頑張っている人たちと悩みを共有していくことで、気持ちの面ではかなり楽になりました。

―「社内起業家」という括りだと、社内ロールモデルが見つかりずらいことも多いですよね。
前例があれば社内にも相談できる先輩がいたかもしれませんが、あいにく私はこの会社の「社内起業家 第1号」でしたので。
同じようなことをやっている外部の方々と会うことは常に意識していまして。いつも相当刺激されている人とかいますし、モチベーションが消えないのはそういう方々のおかげでもあると思います。
そういった志を持った挑戦者を増やしていきたい、という想いもありますね。

―岩田さんご自身としては、今後でどのようなキャリアプランを描いていますか?
仮にどのような場所に所属していたとしても、新しい事業を興して、社会に価値を還元するようなことをやり続けていきたいですね。
会社と個人の関係性についても、従来の「雇い、雇われる」という関係ではなくて、あくまでも対等として働いていきたいです。自分は会社のリソースを使わせていただきながらやりたいことをやって、その結果が会社のためにもなっているという形で、需要と供給がマッチしている限りは今の環境でチャレンジを続けることも面白いと思っています。
その上で、私の人生の目標としては「サイエンス」と「文化活動(芸術やエンタメ)」の2つの分野の発展に貢献したいという明確なビジョンがあります。
直近としては、その目標に繋がる仕事として「SpoLive」事業で貢献していきたいと思っています。

社内起業家へのメッセージ

―最後に、日々奮闘している社内起業家の方々、新規事業にチャレンジしたいと思っている人たちへのメッセージ、応援のアドバイスを頂戴できればと思います。
社内起業に限らずですが、やっぱり新規事業は正解がないので、誰がやっても失敗は絶対すると思います。私もこれまで沢山の失敗をしてきて、これからも何度もつまずきながら進んでいくのかなと思っていますし。
もちろん失敗なんてしたくはないですけど、新規事業というものは失敗してなんぼの世界だと思うんですよ。だからそれは当たり前!と思って、受け止めながら前に進んでいって欲しいですね。

あとは、社内起業の場合は前例がないことも多いですし、「創業者」と「社員」の立場の違い等から孤独になることも多いと思います。私も孤独を感じることは今でもあります。
そういう時には、同じような境遇でチャレンジをしている人たちと沢山会って、沢山話す機会を意識して作ることですね。気持ちもポジティブになれるし、何かヒントが見つかることもあるかと思います。もし私自身がそういった助けになれるなら、私もいくらでも話し相手になります!

幸いなことに、日本の社会全体の中でも、会社の中でも、「挑戦する人を応援する雰囲気」は活発になってきていると思っていて、これは非常に良いことだと思っています。私個人としては、この空気感の中であれば、自分の人生を賭けるチャレンジも出来ると考えています。

社内起業に取り組んでいる皆さんは、きっとやりたいことや、実現したい世界があったからこそチャレンジしたのだと思うので、一緒にどんどん攻めていきましょう!

編集後記

日本を代表する大企業であるNTTグループの中で「社内起業家 第1号」として社内新規事業にチャレンジをする岩田さんに取材をしました。

自分のWillと会社の方向性を合致させながら、あくまで対等な関係性で会社と向き合って事業を推進している岩田さんの働き方から、社内起業家にとって非常に重要なマインドとスタンスを学ぶことが出来ると思いました。

「サイエンス」×「文化活動」の軸で社会への価値創造を続けていく岩田さん自身と、「SpoLive」事業の今後の展開に期待したいと思います。


(取材/編集:加藤 隼、執筆:野原うさぎ、撮影:土井 雄介、デザイン:村木 淳之介)

2020-06-25|
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